血管病の治療と予防のポイント:知っておきたい医療のこと(2/2 ページ)
定期的な検査を行い、生活習慣病を予防するような心がけをしていたとしても、それだけで克服できるとは限らない。もし、「急変」に至った場合には、どうしたらよいのか。
脳卒中から身を守るために
脳の血管病は脳卒中と総称され、その6割が脳梗塞、3割強が脳出血、1割弱がクモ膜下出血です。これらの疾患も心筋梗塞と同様に、早期発見、早期治療が重症化せずに回復するためのキーポイントです。
クモ膜下出血は脳動脈瘤が破裂する前に発見してコントロールすれば理論上は完全に予防できますが(クモ膜下出血の原因は脳動脈瘤破裂です)、脳梗塞や脳出血は、日頃の健康管理が行き届いていても予兆なく発症することがあります。
そして、最も頻度の多い脳梗塞は、発症してから3時間以内に血栓溶解剤を投与できるか否かが鍵となります。時間内に血栓溶解剤が投与できれば後遺症が最小限になる可能性が大きいのに対して、処置が遅れて投与のタイミングを逸すると弱ってしまった血管が破れて出血するリスクがあるため血栓溶解剤は投与できなくなってしまいます。そうなると重症化してたとえ救命できても負担の大きな後遺症が残るリスクが大きくなります。
また、病院到着後も、治療体制が整って実際に処置が行われるまでには1時間程度は時間を要しますので、発症2時間以内に然るべき医療機関を受診しなければいけません。すなわち、脳卒中発症時の典型的な症状は特徴的ですので、その症状が見られたら躊躇なく救急車の要請をすべきです。
脳卒中の初期症状
脳卒中発症時の初期症状としては、
1、片方の顔がゆがむ
2、片腕や片脚に力が入らない
3、ロレツがまわらない、の3つが代表的です。
他には、片方の目が見えない、物が2つに見える、視野が欠ける、力はあるのに立てない、歩けない、ふらふらする、経験したことのない激しい頭痛がする、などがあり、以上の症状が突然発症したら速やかに救急要請しましょう。発症2時間以内に、脳神経外科専門医による診断と、緊急CT/MRI検査が可能な医療機関を受診できれば回復する可能性が大きくなります。
心筋梗塞や脳卒中の発症を未然に防ぐ健康管理のポイント
心筋梗塞や脳卒中は発症後いかに短時間で然るべき医療機関を受診し得るかが、死や重症化を回避するには最低限必要なことですが、言うまでもなくこれらの疾患の発症を未然に防ぐことができればそれ以上のことはありません。そのための、健康管理のポイントを最後に触れたいと思います。
まずは、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクである動脈硬化の発症を予防することが重要です。その上で、動脈硬化が体の中で進展していないか、致死的な状態に近づいていないかを定期的にチェックすべきです。
前回も触れましたが、動脈硬化の発症リスクは
1、加齢
2、喫煙
3、糖尿病
4、脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪上昇、善玉コレステロール低下)
5、高血圧
6、肥満/内臓脂肪蓄積
7、活性酸素過多
8、歯周病 などが挙げられます。
一方、血栓症の発症リスクは
1、血流うったい(心臓細動、筋肉ポンプ失調など)
2、凝固能亢進・血栓形成傾向(体質や炎症)
3、血管内障害(動脈硬化、外傷、感染、脱水)などです。
これらが生じないようにするには、
1、緑黄色野菜を豊富に食べる
2、十分な水分を摂る
3、減塩に心掛ける
4、動物性タンパクに偏らない
5、腹八分
6、間食しない
7、就寝前3時間は食事しない
8、抗酸化サプリメントの利用
9、毎日7〜7.5時間の睡眠
10、週5日以上の20分間早歩きウオーキング
11、毎日10回の深呼吸、20回の腹筋、20回のスクワット、20回のカーフレイズ程度の運動
12、ストレス回避、ストレス消化(趣味 瞑想)
13、歯の手入れを怠らない などが挙げられます。
一方で、動脈硬化が進展していないか定期的に受けておくべき検査法としては、
1、血液検査によるリスク評価(6〜12カ月毎)
2、心電図検査(毎年)
3、頸動脈エコー検査(毎年)
4、動脈硬化度測定検査(毎年)
5、頭部MRI/MRA検査(1〜3年に1回)などが挙げられます。
ただし、これらの検査を受けることが目的になってはいけません。検査をしっかりと受けて安心してしまう方がしばしば見受けられます。肝心なのは、検査により評価された発症リスクをしっかり受け止めて、リスクを管理するための適切な生活スタイルを維持することです。
そして、しっかりと対策を講じているにも関わらず心筋梗塞や脳卒中が発症してしまうこともあるわけですから、怪しい症状が見られたら躊躇せずに然るべき医療機関を受診してください。
著者プロフィール:北青山Dクリニック 院長 阿保 義久
1965年、青森県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第一外科勤務。その後、虎の門病院で麻酔科として200例以上のメジャー手術の麻酔を担当。94年より三楽病院で胃ガン、大腸ガン、乳ガン、腹部大動脈瘤など、消化器・血管外科医として必要な手術の全てを豊富に経験した。97年より東京大学医学部第一外科(腫瘍外科・血管外科)に戻り、大学病院の臨床・研究スタッフとして後輩達を指導。
2000年に北青山Dクリニックを設立。下肢静脈瘤の日帰り手術他、外科医としてのスキルを生かした質の高い医療サービスの提供に励んでいる。
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