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「競争」から「共創」へ。時代のニーズに合わせて進化を続ける老舗クリーニング店、喜久屋の挑戦に迫る経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)

市場規模が年々縮小を続けるクリーニング業界で、新たな価値創造となるサービスを提供することで、顧客のニーズをとらえ事業を拡大することができる。

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「相手善し」「周り善し」「我なし」が喜久屋流「三方善し」

井上 顧客満足度を高めるための取り組みや仕組みはありますか。


中畠社長(左)と聞き手の井上氏

中畠 リアクアには、認定工場制度を設けています。まずは、喜久屋が独自に設けている基準をクリアすることが求められます。認定を受けてからは、喜久屋が提供するシステムを全員に利用してもらいます。コールセンターで受けたお客さまからのクレームは、提携先クリーニング会社の間でオープンにしており、業務改善に役立てています。クレーム内容、対応、原因の追究、再発防止策などについて事細かに共有し、みんなで勉強する機会にしています。

井上 提携先が増えれば増えるほど、足並みをそろえることは難しくなりそうですね。取りまとめるために経営者として意識している点はありますか。

中畠 儲けたいとか、自分のためというのではなく、社会のため、地域のため、生活者のためという動機の純度をどこまで高められるかだと思います。喜久屋の企業理念として掲げている「三方善し」にもその思いを込めています。

重要なのは、三方である「相手」「周り」「自分」の優先順位です。事業を行っていく中で、いつの間にか「自分」が一番になっていることがあると思います。そういうときは、大抵うまくいきません。

 経営者としてあるべきなのは、「我なし」の精神を持つことです。そうなって初めて、純粋に相手のこと、第三者のことを考えられるようになります。純粋な動機から行動をするようになると、人間的に大きく成長し、その成長した分だけリターンがあります。経験上、「我なし」の思いで取り組んだことは、実力以上によい方へ物事が進みます。

 1%でも自分中心の考えがあると、どうしてもぶれたり、迷ったりします。経営者の思いの純度が高ければ、周りの人たちにも自然と伝わり、「一緒に役に立つことをやりたい」と思ってもらえるようになるのです。

あらゆる業界、お客さまとも「共創」する

井上 究極の人材育成だと思います。ノウハウ論では語れない部分ですね。「共創」という観点で、今後どういった事業展開を考えていますか。

中畠 第1の共創を同業他社との協業だとすると、第2の共創は、異業種異業態の会社との協業です。リアクアではすでにアパレルのオンワード、不動産業のエフ・ジェー・ネクスト、ハウスメーカーの大和ハウス工業などと提携をしています。

 その中でも、以前は犬猿の仲とされていたのが、アパレル会社です。服を作る側とメンテナンスする側として敵視していた時代が長く続いていたんです。しかし、時代は変わりました。喜久屋が提供する衣服無料保管サービスの利用によって、収納スペースを空けることが新しい服を買うことにつながるという期待がアパレル会社にはあるのです。

 今後も、さらに幅広い業界との共創によって、さまざまな生活サービスがワンストップで提供できるようにしていきたいと考えています。

井上 そう考えると、あらゆる業界との協業ができそうですね。

中畠 会社だけではありません。第3の共創の相手は「お客さま」です。リアクアでは、「リアクア共創パートナー」を募集し、商品開発をお客さまと一緒に行っています。新サービスのプロトタイプを利用し、意見をもらっています。お客さま視点というより、社外開発担当のようなスタンスで携わってもらい、どんどん提案してくれます。現在、登録者数は100人を越えました。

井上 今後の事業展開について教えてください。

中畠 リアクアはクリーニングのネット宅配サービスと思われていますが、その裏で、サービスを提供するために私たちが行ったのは、生活サービスのプラットフォームとなる仕組み作りでした。今後は、独居老人への安否確認サービスや、不要な衣類の引き取り、観光誘致などあらゆる生活サービスへと拡大していく予定です。

 もうひとつ取り組みたいのは、クリーニング店舗の価値変換です。リアル店舗を生活者のニーズに合った「生活サービスステーション」のようなものに転換し、さまざまな業界との共創によって、生活サービスをワンストップで提供できるような仕組みを作りたいと考えています。

対談を終えて

 中畠社長は、お客さまを「生活者」と呼んでいました。理由は、お客さまでは利害関係を感じてしまうからだといいます。そういった言葉の一つひとつに、本気で顧客満足を叶えようという覚悟を感じました。

 「三方善し」という言葉は、経営者なら誰もが知る概念ではありますが、「お客さま善し、世間善し、我無し!」といい切る姿勢には、人間としての凄味すら表れています。同じ経営者として、中畠社長の意見には、心まで洗われる感じがしました。

 サービスの提供によって、生活者の居住スペースを確保し、さらには、余暇の時間を増やすという発想も、自社の利益確保優先では出てこない考え方です。喜久屋はすでに、衣類を洗うという単なるクリーニング店の枠を大きく超えた、生活者のプラットフォームになっています。これから先、われわれの生活様式を丸ごと変換するような価値提供をしてくれそうな予感がしました。

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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