「インターネット発のマスメディアを創る」AbemaTVが1000万月間アクティブユーザーを集める理由とは?:経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)
サイバーエージェントとテレビ朝日が共同運営し、独自性の強い番組作りが話題となっている。特徴と開局されるまでの開発秘話を聞いた。
長瀬 24時間365日、番組の編成を組んでいます。アプリを開くと最初に出てくるチャンネルでニュースを24時間流しています。このニュースは、テレビ朝日さんの報道局のチームが制作、編成し24時間放送しています。熊本の震災があったときは、緊急地震速報を24時間放送し“震災アプリ”として紹介されたこともありました。
井上 以前AbemaTVに出演したとき、視聴者の方からいろいろなコメントをいただき、参考になりました。視聴しながらコメントできる機能も、インターネットテレビならではですね。
長瀬 コメント機能は、ユーザーにとってなくてはならない機能の一つだと思います。番組側も、ユーザーがコメントしているものを見ながら番組を作り上げていくことで、ユーザー側と作り手がインタラクティブにやりとりでき、ユーザーにとってのおもしろさがさらに深まっていると思います。
インターネットとは違い、放送は絶対に落としてはいけない
井上 AbemaTVの開発はかなり難しいものだったと思います。サービス開始に向けて苦労したことを教えてください。
長瀬 そもそも実現できるかどうか分からない状態で開発をスタートし、試作品を200以上作りました。インターネットサービスはよく落ちることもありますが、放送は絶対に落としてはいけません。いかに放送を落とさないかという技術的な難しさがありました。
チャンネルを切り替えるとすぐ映像が切り替わるストレスのなさを実現することも簡単なことではありませんでした。サクサクと滑らかに動くこと、ユーザーが直感的に分かるシンプルな操作性にこだわり、妥協せずに極限まで追求しました。
インターネットサービスの世界では、リリース日が延びるのは日常茶飯事ですが、AbemaTVに関しては、4月11日の開局をずらすことは絶対にできませんでした。そのプレッシャーはとても大きかったです。
井上 テレビ局で実現している安定性をインターネットテレビで実現するということには相当な難しさがあったのですね。サービス改善のためにはどんなことをされていますか?
長瀬 サービス開発においては、より直感的に操作できるサービスにするため、定期的にユーザーヒアリングを行っています。実際に操作してもらい、手が迷っていないかなどをチェックしたり、使いづらいところやニーズを探ったりして、その結果をデザイン変更に生かしてきました。
井上 テレビ朝日と一緒に運営している理由を教えてください。
長瀬 サイバーエージェントはインターネットの会社ですので、ニュースやバラエティなど番組の制作において知見がありません。テレビ朝日から番組プロデューサーやディレクターの方にAbemaTVに出向してもらい、テレビ局の持っている番組制作能力によって、一緒に番組を作っています。
井上 番組の企画については、どのようにアイデアを出しているのですか?
長瀬 代表の藤田自身がAbemaTVの総合プロデューサーとして、ほぼ全ての番組企画について、最終的な判断をしています。テレビ朝日とサイバーエージェントの制作スタッフが番組の企画アイデアを持ち寄る「トンガリスト会議」というものがあり、そこから新しい番組が生まれています。視聴者の方が見たいと思うようなとがった企画で、インターネットテレビとして話題になるような番組を作ることを目指しています。
他にはない革新的なデザインを目指し、横画面だけでリリース
井上 リリース時は横画面だけの対応でしたが、現在は縦でも視聴できるようになっています。どういった経緯で変更したのですか?
長瀬 リリース時、常に横画面のアプリだと操作性が問題になると認識はしていましたが、デザインの独自性を高めること、映像のきれいさを直感的に伝えるといったことを目指し、あえて横画面だけを採用しました。多くの動画サービスが縦画面である中で、他社と同じようなプロダクトでローンチをしてしまうと、サービス自体のブランディングにならず、インパクトにも欠けます。他の動画サービスにはないデザインがAbemaTVのブランドを作るためには必要でした。
その後、リリースから1年が経ち、インターネットテレビ局としてのAbemaTVの認知が高まってきたため、利便性の高い縦画面にも対応を始めました。
井上 今後、AbemaTVが目指すインターネットテレビの可能性、ビジョンなどを教えてください。
長瀬 AbemaTVはインターネット発のマスメディアを創ろうということでスタートしました。開局当初は、広告や課金を主軸に収益を上げることを考えていましたが、今後は、新しい分野の放送外収益を増やしていくことも視野に入れていきたいと思っています。
具体的には、最近盛り上がりを見せているeスポーツも楽しむことができる「ゲームチャンネル」を新しく開設しました。eスポーツ分野にも力を入れ、新たなビジネスモデルを構築しようと考えています。
放送外収益を増やし、その利益をさらに魅力的なコンテンツの制作に充てることで、サービスを磨き上げていくことを目指しています。
編集後記
顧客の「1」の満足を得るためには、サービス提供者側は「100」の努力が必要。開発局局長である長瀬さんのお話を聞いて真にそう思いました。インターネット発のマスメディアを創ると公言する舞台裏で、これだけのエンジニアの努力があることに脱帽です。私自身もAbemaTVに何度か出演させていただいた経緯もあり、よく視聴していますが、地上波テレビのように、きれいに快適に番組を見るという、視聴者にとって当たり前の実現にこれほどの労力がかかっているとは思いもよりませんでした。
また、インタラクティブにコミュニケーションが取れるインターネット特有の環境にも期待が持てると思いました。番組を見ながら視聴者がコメントできる機能があることによって、視聴者が好む番組を制作したり、各デバイスでの視聴の利便性をさらに押し上げてくれたり、キャスティングなどにもよりダイレクトに意見が反映されそうです。本当の意味での視聴者参加型のテレビという未来に胸が躍りました。
プロフィール
井上敬一
ブランディングコミュニケーションデザイナー
株式会社FiBlink代表取締役
兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、Webセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済をけん引する役割を目指す。
圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルを分かりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。
主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。
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