働き方改革を経営者の視点で読み解く:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
労働時間至上主義から個人の労働生産性まで考慮した評価に変えていく必要があるのではないだろうか。
就業規則で重要になると思われることは、「就業規則の比較に当たり、労働者ごとに、どの就業規則が適用されるのかが規程されているかどうか」「働き方や処遇が異なる労働者を同一の就業規則で規程していないか(個別に作成すべきである)」「就業規則に曖昧な規定がないか」「手当の項目ごとに、手当の有無や、手当の額、率、日数などの差が正規と非正規にある場合の理由が合理的であるか」などが挙げられる。
例えば、正規と非正規労働者の賃金について合理的な理由がなく、各種手当などの取り扱いに大きな違いがあることを賃金規程に記載している企業は注意が必要である。今後は、パートタイムの就業規則が重要になる。退職金などパートタイム労働者に適用がない場合は、はっきり退職金なしと就業規則に記載し違いを明確にすべきである。パートタイムの就業規則に規程がない場合は、正社員の規程が適用される場合があるので注意が必要である。
しかし、正規と非正規では、責任の重さやそもそも同じ仕事なのかといった考えもある。さらに、派遣労働者と正規労働者の賃金について、必ずしも非正規の方が賃金が低いとは限らない。派遣労働者の場合は、正規より賃金が高い場合がある。経営者は、当然賃金の高い方ではなく、低い方に合わせようとするだろう。そうすると、派遣労働者の賃金が下がることになる可能性もある。また、せっかく企業で正規の道を用意したとしても、このままの賃金で責任がない今の地位がいいと捉える非正規もいるだろう。その場合どのような処遇にするか考える必要がある。
しかも賃金は職務だけでなく、経験、勤続年数、能力などを考慮して決定されるものである。この要素をどれだけ同一労働同一賃金の例外として認められるかも重要になってくる。本来賃金をはじめ労働条件は、企業と個人が決定すべき事項である。ここを国が法律で規制をするのは、市場原理からしてもおかしいのではないか。
働き方(能力)は個人間で差がある。ここを画一的に規制することはかえって働き方が硬直化し、日本の企業統治が画一化される可能性がある。本来は、個々人ごとに自由に労働条件を決定し、契約を締結することが、働き方改革につながるのではないか。働きたいと思っている労働者もいるはずであり、ここの権利をしっかり担保する必要がある。
また、このままでは経営者は正社員を採用することをちゅうちょするだろう。これはヨーロッパの失業率の高さを見れば明らかである。私は、ヨーロッパでの白人若者の失業率の高さは移民問題ではなく、行き過ぎた労働法制の規制(経営者に取り)が一番関係していると考える。
今後は経営者、労働者と分けて議論することはやめ、経営者も労働者であり、「働き手」として皆が幸せになるような制度を構築するべきである。そのことにより、障害者などのマイノリティーも幸せな働き方につながる。
労働基準法についても、企業規模や産業(職種)により、分けて実態に即した内容にすべきである。労働基準法が実態に追い付いていない現状がある。
働き方改革関連法案の施行時期であるが、法案成立から施行まで1年空けることを考慮すると、私は早くて2019年夏から2020年4月になるであろうと予想する。裁量労働制の問題を見ても分かるように労働法制は、政争の具に使われることが多い。今国会の対応を見ていると、会期内での成立は難しく、会期を延長した上で臨時国会での成立になるのではないだろうか。厚労省の予算委員会での対応が、野党を刺激し、厚労委員会の野党の審議拒否につながる可能性も否定できない。丁寧な審議のため長く審議時間を取らなければならないだろう。2018年4月6日に働き方改革関連法案が閣議決定され、順次国会に上程される予定である。
また、高度プロフェッショナル制度など野党が反対している法案もあり、私が国会担当者ならば、野党が反対している法案を分離し、労働基準法改正など与野党が一致しているであろう法案から審議する。施行日がばらばらになる可能性もあり、担当者は注意が必要になってくる。
著者プロフィール:田岡春幸
厚労省入省後、旧労働省畑を歩き、最低賃金法改正などに携わる。退官後、企業側の立場で労働問題コンサルタントとしてユニオン問題、IPOの労務支援などを行う。労働問題、働き方改革で執筆活動や講演会なども行っている。本年ヒューマンリスクマネジメントを起業し、代表取締役に就任。
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