マーケティングはしない、自分たちが本当に欲しいものを作る――化粧品ブランド「マナラ」が女性たちの支持を集める理由に迫る:経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(2/2 ページ)
「効果が実感できる化粧品を作りたい」という岩崎裕美子氏の思いから2005年に創業したランクアップ。女性たちの支持を集め続ける理由とは何だろうか。
岩崎 ホットクレンジングゲルの中身が最後まで出てこない、出しづらいという声があり、ましたチューブタイプの容器のキャップを外すと、中に指を入れてかき出せるように改良しました。
社員も製品を使っているので、お客さまから寄せられる不便な点について共感することが多く、日々改良を重ねています。製品をリニューアルするときは、できるだけ早く情報を提供し、あえてお客さまには買い控えを促すこともあります。お客さまの立場で行動するようにしています。
女性が幸せに働ける環境を実現し、社員ほぼ全員が17時に退社
井上 ランクアップは、女性が働きやすい環境が整っているとして、「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」に選出されたそうですね。働きやすい環境を整えることで社員満足度を高め、そのことがお客さまからの支持にもつながっているのでしょうか。
岩崎 当社は従業員54人中47人が女性で、そのうち約半数がワーキングマザーです。女性が働きやすい会社を目指しており、その実現のため、残業をなくすことからスタートしました。今では、ワーキングマザーはほぼ全員が17時に帰っています。また、社員全員が残業をしない文化を継続させるため、残業時間のランキングを出しています。
井上 残業をなくすため、具体的にはどういった取り組みをしたのですか?
岩崎 「業務棚卸し表」によって、社員一人一人の業務を可視化し、業務内容の見直しを行いました。そもそも必要のない業務を見極める、業務の一部をシステム化する、アウトソーシングするなどして、効率化を図りました。そういった取り組みによって、決められた時間内でより効率的に集中して仕事ができるようになり、多くの社員が17時に帰ることができるようになりました。
残業削減以外にも、女性社員が安心して子育てと仕事の両立ができるよう、ベビーシッター代金を全額負担したり、子連れ出社を認めたりといった取り組みを行っており、働きやすさは十分改善してきたと自負しています。
これからは「働きやすさ」から「やりがい」にシフトするため、新たな取り組みを始めているところです。社員一人一人がKPIを設定し、数値化して目標達成を目指しています。
井上 制度が形だけのものではなく、実際に社員全員が働き方を変えていることが素晴らしい取り組みですね。最後に、今後の新たな展開について教えてください。
岩崎 新しい事業によって、世の中に輝く女性をどんどん増やしていくことを目指し、2018年5月から「新規事業創出プロジェクト」を立ち上げました。新規事業を生み出すプロセスを学ぶ社内向けの研修です。社員にママが多いので、子ども関連の教育事業など、来期から新たに事業化できるものを増やしたいと考えています。
〇編集後記
「顧客ではなく友人」インタビューを終えて、私の中に浮かんだ言葉です。友人だから、どんな悩みがあるのか聞いてみたい。友人だから、当然その悩みを解決する手助けをしたい。この会社からは、そんな思いがひしひしと感じられました。そうでなければ、自社の売上を落とすことになっても、「次の製品はもっといいですよ」と、事前にリニューアルの発表をする、お客さまからの製品に対しての苦言に「そうですよね、こちらも感じていましたので改善します」とは言えないと思います。
顧客と捉えていると、どこかで売れなければという想念が出てきます。しかし、この会社は、売れるかどうかは後、とにかくよいものを作りたい、役立ちたい、という一点突破なのです。どこまでも友人として一緒に輝きましょうというスタンスは、購買する側として非常にうれしいし、その結果が12年連続増収につながったのでしょう。
「顧客」という概念は存在せず、全ては「友人」という考え方。こういった理念を掲げている会社は数多くあっても、真に貫いている会社は他に類を見ません。平たい言い方ではありますが、「すごい」の一言です。また、社長をはじめ、社員が自社製品の一番のファンである。これも、本当に役に立つものを作りたいと思っているからこそ宿る精神だと思います。
「子育て一番」を掲げ、実際に女性の働き方改善を繰り返し、「ライフ・ワーク・バランス認定企業」になったのも、社員ではなく友人として接し、働きやすい環境を整えたいと取り組んできた当然の結果なのかもしれません。顧客(友人)も社員(友人)も輝く。これからの時代にわれわれが目指す企業がここにありました。
プロフィール
井上敬一
ブランディングコミュニケーションデザイナー
株式会社FiBlink代表取締役
兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、Webセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済をけん引する役割を目指す。
圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルを分かりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。
主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。
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