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3年目の覚悟、実体なきイノベーションからの脱却――みずほフィナンシャルグループ 大久保光伸氏デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

みずほフィナンシャルグループは、金融APIを公開してスタートアップや異業種とつながり、新たな価値を創出するオープンイノベーションに力を入れてきた。渦中で指揮を執る大久保氏はどのように取り組んできたのか。

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 スタートアップから相談を受ける機会が多い大久保氏は、「銀行側から提示される接続要件がFISCのチェックリストや全銀協の標準仕様から懸け離れている」「情報セキュリティチェックリストがオンプレ前提でクラウドに対応していない」といった指摘をよく耳にするという。金融機関の流儀に固執すると有力なスタートアップとの連携を逃しかねない。「目まぐるしく環境が変化する中で、柔軟な対応ができるよう規程を変え、情報セキュリティ管理規則を最新にし、外部委託先チェックリストを見直す……DXという響きに比べて地味ですが、外に押し付けるのではなく、自身がこれらをやらない限りオープンイノベーションは難しいでしょう」(大久保氏)

イノベーション人材の芽をつぶさないためには

 Blue Labには、地方銀行や異業種、パートナー企業からの出向者も多い。出向中は、社内外の多様なメンバーと新規ビジネス創出に動き、ディベロッパーコミュニティに参加したり、サンフランシスコでサービスデザイン研修を受けたりと、銀行員としては一味違った経験を積むことができる。出向成果の可視化には、「目標達成マンダラート」を活用している。「目標達成マンダラート」とは、目標設定から実現までのステップを明確化できるフレームワークで、メジャーリーグで活躍中の大谷翔平選手が高校時代から活用していたと知り、取り入れた。Blue Labでは、出向者をプロフェッショナルとして迎え入れる向きが強い。そのため、ビジネスと自身のスキルアップが直結するような目標設定がなされている。

 しかしそれでも、元の職場に帰ると従前の“やり方”に戻ってしまうのだという。大久保氏は、「従前の銀行業務に戻してしまうのではなく、彼らが力を発揮できる環境や肩書を作ってあげてほしい」と出向元に掛け合っているという。


Blue Labで使われている出向成果の「目標達成マンダラート」。こちらは大久保氏のもの。

 グループ全体としては、異業種のデジタル人材や新規ビジネス開発経験者を採用し、Blue Labだけではなく銀行本体に送り込んでいる。デジタルのノウハウを持った人材に銀行本体の実務権限を与えることで、Blue Labで芽吹いたシーズを銀行本体で巻き取れるようにしようという考えだ。大久保氏が「イノベーションの啓蒙と市場の創出に終始した」と評する昨年までの状態から、着実に進展が見られそうだ。

 加えて、オペレーショナル・エクセレンスのスペシャリストを増やしたいと考えている。オペレーショナル・エクセレンスとは、企業が他の追随を許さないほどの競争優位性を手に入れるため、現場の業務オペレーションを徹底的に改善していくことを意味する。「パッションを持ったメンバーが思いっきり目的を完遂できる環境を作りたい」と大久保氏は意気込む。

これからの銀行の形、イノベーターの戦い方

 最後に、これからの銀行が提供する価値についてどう考えているのか聞いてみた。

 大久保氏が考える銀行の価値は、これまで培ってきた無形の信頼を生かし、社会基盤としての役割を果たすことにある。今の銀行の形であり続けることにこだわりはない。次世代金融への転換に向けて、これまで培った強みを最大限に発揮し、デジタル化や外部との積極的な協働を加速していく。昨今話題となっている「情報銀行(個人から信託されたパーソナルデータを適切に管理・運用する事業)」も一つの解だという。「私が考える銀行のデータ利活用の形は、お金もうけではなく、例えば、Aさんは食物アレルギーを持っているという情報があり、その人が飲食店を予約するとアレルギーフリーな料理が出てくる、そんな世界を目指したいんです」(大久保氏)

 大久保氏は現在、みずほとBlue Labの他に、政府CIO補佐官、金融革新同好会FINOVATORS、Fintech協会など、7枚の名刺を持つ。社内外の同志と協力し、安定としがらみで凝り固まった金融業界を変えるには、必然的に7つの顔を持たなければならなかったのかもしれない。眠る時間はあるのだろうか。自分だけでも、みずほだけでもない、社会全体の役に立つことを信念に、大久保氏は自らの人生をもってオープンイノベーションを成し遂げようとしているように見える。

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