DX推進は、いかに戦略と体制を確立し、人材を育成するかが成功のカギ――サツドラ独自のDX戦略とは:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
AIカメラなどの先端テクノロジーの活用や異業種連携により、店舗のデジタル化にいち早く乗り出したサツドラ。コロナ禍では、AIカメラソリューションをわずか2週間で共同開発した。サツドラ独自のDX戦略を学ぶ。
DXでAIカメラを迅速かつ柔軟にコロナ禍対応
サツドラPOSの開発により、EZOCAの運用を開始できただけでなく、新店舗へのPOSの導入コストを44%削減した。またクラウドを活用することで、店舗サーバも不要となり、保守コストを50%削減している。今後も機能改善を繰り返すことで、さらなるコスト削減も期待できる。
AWLは、多くのメディアでも注目されている期待のベンチャー企業。AIカメラソリューションにおけるデファクトスタンダードを確立し、さらにアジア、世界へとビジネスの拡大を目指している。最大の特長は、17カ国からエンジニアが参加しているグローバルチームで開発をしていることである。
AWLは自社で開発したエッジAI技術を利用して、既存の監視カメラを使って、防犯映像を一元管理できるレコーダー「AWL BOX」を提供している。富山氏は、「AWL BOXは、1台あたり約20台の防犯カメラの映像を一元管理することができます。もっともこだわったのは価格で、多店舗展開のチェーンストアでも導入しやすい1台あたり25万円という低価格を実現。100店舗以上のサツドラにも導入しています」と話す。
AWL BOXは、2020年2月に販売を開始したが、これからビジネスを拡大というときに新型コロナウイルス感染症が拡大。多くの受注がキャンセルになったことから、新型コロナウイルス禍に対応したソリューションの開発に舵を切った。「まずはAWL社内でオンラインハッカソンを開催し、約2週間でコロナウイルス感染対策ソリューションにまとめました」と富山氏。
具体的には、AWL BOXのエッジAI技術を活用し、マスク検知、混雑度推定、消毒検知、距離検知、さらにそれらをWeb連携できる機能を実装。AIはモデルの学習が必要なので、サツドラの店舗で学習させた。さらに大勢の人の体温を、エッジAI技術を使って瞬時に検知する機能や、マスクをしていても高精度で顔認証ができる機能の提供を開始した。設定条件に合致したときに、スマートフォンにアラートを送信する機能も搭載している。
「現在、サツドラ、AWL、サイバーエージェントの3社で、デジタルサイネージとAI技術を組み合わせた広告配信の仕組みを開発しています。これにより、例えばAIカメラを活用した店舗内の導線分析や、AIカメラとPOSを組み合わせた顧客属性比較分析、店舗におけるA/Bテストなどができます。こうした仕組みは、ECサイト上では実現できていましたが、リアル店舗でも実現できることが最大のポイントです」(富山氏)。
今後、サツドラでは、自社のDXの経験を、ほかのチェーンストアにも展開していくことも計画している。
DX推進の場づくりと人材育成が新本社のコンセプト
「2020年9月に、サツドラの本社を移転しました。これは、約2年半前からのプロジェクトで、1階が店舗、2階がインキュベーションオフィス、そして3階がサツドラグループ本社となっています。新しい本社を中心に、店舗や地域のDXをさらに推進していきます」(富山氏)。
2階のインキュベーションオフィスは「EZOHUB SAPPORO」という名称で、シェアオフィスやブックラウンジ、ハブ(カフェ)スペース、ヒグマホールなど、社内外の人が集うことができる場となっている。AWLのオフィスもここに移転している。1階の店舗には、AIカメラが設置され、さまざまな実証実験を行うことができる。
また2020年10月に、企業コミュニティーの組成を通じて、Retail(小売)とRegional(地域)のDXの場を作ることを目的とした、新しい社会インフラの構築を牽(けん)引する新会社であるR×R Innovation Initiativeを設立。さらに教育・人材育成を事業とするシーラクンスも設立し、小・中学生を対象に、ICT教育のカリキュラムを展開。新型コロナウイルス禍により、高校、大学も含めたリモート授業の仕組みもサポートしている。こうした取り組みが評価され、民間企業として初めて北海道教育委員会と提携もしている。
その他、大人向けのICT人材の育成にも注力しており、デジタルハリウッドとの協業による起業家エンジニア養成コミュニティーであるG's ACADEMY UNITを2020年10月に開講。現在、約20人のエンジニアが1期生として学んでいる。富山氏は、「人材育成の取り組みにより、DXの機運をさらに高めていきたいと考えおり、また、自分自身の勉強も兼ねて、SNSも含めたデジタルの場での情報発信も積極的に行っています」と話す。
富山氏は、「これからのDX推進に重要なのは、企業風土・文化づくり、コラボレーション、トップのコミットです。サツドラのDXは、まだ道半ばで、本格化できるかどうかはこれからが勝負です。DXは1度仕組みを作って終わりではなく、変化に対応し続けることが必要です。そのための組織をいかに作るか、いかに人材を育成するかが重要になります」と話し講演を終えた。
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