第1回 「荒ぶるDX四天王」に立ち向かうすべを備えているか:“デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー”ではじめるDX2周目(2/2 ページ)
DXの取り組みに正解となる「道筋」があらかじめあるわけではない。あくまで自組織の現在の立ち位置(From)を踏まえて、どこに向かっていくか(To)を自ら定め、そのFromからToに至るためのギャップを乗り越えていく活動となる。
それは「大本営発表DX」と呼ばれる状態である。自社のDXを対外的に発信しようと経営、マネジメント層は「成果探し」に躍起になる。何か言えることはないかと組織の中を探し回り、大した結果でもないものでも取り上げる。それが行き過ぎると、「外に向けて言うために施策に取り組む」という本末転倒に陥っていく。誇張される戦果と現状とのつじつまをあわせようとする負担は、現場へと押し寄せる。
そもそも、DXとは自社にはこれまでなかったケイパビリティを新たに獲得し、備えていく取り組みでもある。つまり、取り掛かる全ての仕事が不慣れであると言って差し支えない。さらには、初となる仕事ゆえにその分量の見立てがつかず、多くの場合DXでの活動は過剰となる(業務量が果てしなく多くなる)。慣れない上に、過剰。現場が疲弊するのは目に見えている。
ゆえに、最後に直面するのは「眉間に皺を寄せながらやるDX」である。ふと気付けば、DXプロジェクトのメンバーの多くが、かつてない時間を費やして、終わりのない仕事へと臨んでいる。延々とそうした状態が続けば、疲弊は深まり、メンバーの離脱にもつながる。そこで組織が気付くことができれば良いが、かつての旧日本軍同様行き着くところまで行ってしまうことがありえる。
組織を救うためにはじめたDXで、かえって崩壊を招いてしまう。そんなことにならないように、最初にDXの段階設計を行う必要がある。
組織の形態進化のためのデジタルトランスフォーメーション・ジャーニー
人が何万年もかけて進化したように、組織もDXによる組織変革を果たし、その形態的進化(トランスフォーメーション)にたどり着くためには相応の時間を要する。3カ月後、半年後に何かがどうなっている、といったレベルの話では決して無い。そうした前提に立って、組織がいかなる状態を経ていくかの構想を立てねばならない。
もちろん、この構想がびょうぶのトラであってはお話にならない。実現のめどが少なくとも五分五分になる程度に時間軸を踏まえる必要がある(とはいえどのような組織であっても、のんびり十年、二十年かけて取り組める状況にあるわけではない)。最初の段階で到達するところ、次の段階で到達するところ、さらにその先へといった具合で、組織のFromからToに適した段階の仮説を立てる。
こうした段階を設定する上では、何かの指針がなければ雲をつかもむようなものだ。そこで、組織が形態進化を果たすために捉えるべき指針として4つの段階を示す。この段階を経ていくイメージを組織の旅になぞらえて、「デジタルトランスフォーメーション・ジャーニー」と呼んでいる。
DXとは旅(ジャーニー)と呼ぶのがふさわしい。到達すべき明確な頂きが見えているわけではないが、向かいたい方向はある(新たな価値創出とそのための組織内の変革)。向かうべき先にどのような段階を踏んでいくのか、その過程に何か正解となるルートがあり、地図として示せるわけではない。
だからこそ、一歩進んでは置かれている状況をみて、次の方向を確認する。進み具合によってはペースを調整したほうがよいかもしれない。あるいは道すがら思いがけない発見があって、想定していなかった取り組みを始めたほうが良いと気付くこともある。DXはさながら探索的なジャーニーとなる。
4つの段階はあくまで1つの指針として、自組織のジャーニーは旅に出る自分たち自身で構想しなければならない。次回から、構想を立てるための手掛かりとなるよう各段階について解説を行っていきたい。
著者プロフィール:市谷 聡啓
株式会社レッドジャーニー 代表 / 元政府CIO補佐官 / DevLOVE オーガナイザー
大学卒業後、プログラマーとしてキャリアをスタートする。国内大手SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサーやアジャイル開発の実践を経て独立。現在は日本のデジタルトランスフォーメーションを推進するレッドジャーニーの代表として、大企業や国、地方企業のDX支援に取り組む。新規事業の創出や組織変革などに伴走し、ともにつくり、課題を乗り越え続けている。訳書に「リーン開発の現場」、おもな著書に「カイゼン・ジャーニー」「正しいものを正しくつくる」「チーム・ジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」がある。
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