第6回:コロナとジョブ型に翻弄されるマネジャー達の悩みと、だからこそ気を付けたいこと:マネジメント力を科学する(2/2 ページ)
コロナ禍で「メンバーマネジメント」「コミュニケーション」「管理」が難しくなり、マネジメントとして当然やるべきことやこれまでやってきたことが、難しくなっている。
しかし本人としては、「育成してもらっていることは感じるんだけど、やはりT型(ジェネラリストの「一型」とスペシャリストの「I型」の2つの特徴をあわせ持つ人材タイプ)というか縦に1本刺さる深掘りをしたくて。さすがにまた別部門に行くのはどうかと思うんですよね」という相談でした。
ここまでこの会社できちんとやってきて、ファンクションもいろいろ見てきている。でも、ここからリーダーやマネジメントとして、どこの専門なのかというと、自分としては希望するところがあるものの、そこだと言い切れるほど専念してきていない。これが非常に不安で、経歴に一本、専門の軸を通していける転職を真剣に考えるようになったわけです。
そろそろ次の異動の時期であるため、「思い切って社外に飛び出してみようか」と。逆に言うと、今やっていることを続けたい気持ちがあって、それをロックインしていけるような外の場を求めているのです。至極まっとうな考え、希望です。
小杉さんは社外取締役として銀行にも関わっていて、その例を話してくれました。
銀行員は従来ゼネラリストで本当に満遍なくいろんな支店を回り、企画を担当し、人事も経験して、グルグル回って出世していく。これをずっとやってきました。
ところが最近いろいろ話を聞いてみると「自分の柱が1本しっかりと立っていない」ということへの不安感が逆にあるようだと。昔は亜流だった「投資」や「市場」などを担当している人のほうが専門性があって市場価値があり、外資系などへの転職もしやすいということになっています。
従来の王道「メンバーシップ型」で育った人たちが、逆に不安を覚えるようになってしまった。そんな印象があるという話になりました。
若手・中堅は「適材適所」、リーダー・マネジメントは「適所適材」
私は、社会人としてのキャリアの入り口としてはメンバーシップ型のほうが絶対にいいと思っています。
新卒や第二新卒時代に、「自分探し」をよくしたがり(させたがり)ますが、何も経験がない時にいくら自分を探しても、何もありません。だから、自分探しではなく「自分創り」として、若い時はいろんな経験をしてみて、<ヒット>が出ることが大事だと考えます。
いろんな経験をした中で、30代に入るぐらいまでにそういうのが見つかるといいのではにでしょうか。最初の職場でヒットが出れば、それでいいと思いますが、なかなかそうもいきません。だから、若手から中堅まではいろんな経験をすることですね。
よく「適材適所か、適所適材か」という話をします。若手の時はある程度、企業も「適材」をきちんと見てあげて、それを「適所」に置いてあげるのがいいと思います。ただ、ある程度皆さまが経験を積んで柱が見えてきたら、今度は「適所適材」のほうがよく、しかるべき場所に、その人をアサインしていくべきでしょう。
若手や中堅からリーダー、マネジメントに移行していく時に、こうしたスイッチングがすごく大事だと考えます。
一方で、会社がいろいろやらせてくれるというのは、いわゆるメンバーシップ型の良さでもあります。例えば新卒でジョブ別に入っても、本当にそれが自分の適性や興味、関心に合うかどうか。経験がないまっさらな状態だと、本当はやってみないと分からりません。
また、経営者から一番聞くのは「自分の軸はマーケティングだったけど、オペレーションを見ていた時期や、管理部門にいた時期もあり、そういうことが、経営層になった時にすごくありがたかった」ということなんです。ずっと1つの職種だけで、他は触ったことがないのでは、事業全体を見ていく必要が出てきた時にちょっとつらいのかなと感じています。
小杉さんいわく、ジョブ型採用の懸念はいろいろあります。もし本当にアメリカ企業のようにやるとすると、採用だけではなく、マネジメントの仕組みを根底から変えることになるわけです。つまり、そのポジションで入ったら、そのポジションが不要になったら辞めなきゃいけない。また、給料を増やしたければ自分自身でプロモートして、グレードを上げていかざるを得ません。それができないなら給料は変わらないし、そこで使い物にならなかったらもっと低いグレードになって、給料も下がるります。「ジョブ型は自己責任であり、何の保証もないんですよ。日本企業は本当にそこを目指すんですか? と思ってしまいます」と小杉さん。
小杉さんや私は、下手すると「勘違いジョブ型」がまん延してしまうことを危惧しています。
今日本で言われているジョブ型みたいなものを、愚直にやってみたらおかしくなっちゃったとなるのではないか。20年前に「成果主義」がしきりに言われていた時期に似ているところが非常にあります。当時、こぞって礼賛した成果主義も、3年ぐらいで崩壊してしまいました。時代が繰り返さないことを願うばかりです。
この「勘違いジョブ型」について、次回ももう数点、大きな問題点と思われるところを見ていきます。
著者プロフィール:井上和幸
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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