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ハイブリッド戦争は日本にとっても他人ごとではない――慶應義塾大学 廣瀬陽子教授ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、まさにハイブリッド戦争である。その脅威は日本人にとっても他人ごとではない。ハイブリッド戦争は、どのように世界の脅威になっているのか、いかに対応するべきなのか。

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 例えば、欧米諸国の政治を混乱させることが目的の場合は、情報の入手や拡散を、軍事的な戦争を展開しながらサイバー攻撃を行う場合や相手国への懲罰的な意味合いが大きい場合は、政府関連、インターネット網や電力システム、銀行システムなどの重要インフラを狙う。ロシアのサイバー攻撃で特徴的なのは、国内の反体制派の弾圧にも利用されること。西側のインターネット企業への圧力もある。

 効果的心理戦としては、フェイクニュースや宣伝キャンペーンをSNSなどで拡散し、インフルエンス・オペレーション(誘導政策)を展開する。最も大きな成功を収めたのは、IRAが2016年の米国大統領選挙で行った反クリントンキャンペーンである。このとき1人10個以上のアカウントを持ち、書き込みを継続した。これにより、次第に一般人も拡散を始め、結果としてクリントンが敗北した。

 さらに、ハイブリッド戦争は世界の危機に波及している。例えばエネルギー価格高騰では、ウクライナ危機前からの動向がさらに深刻になった。また、ロシア、ウクライナは、世界の小麦の3割を供給してきたが、それが輸出できない状態のため食糧危機も引き起こした。ロシア、ベラルーシは、肥料の輸出大国でもあるが輸出できない状況である。

 7月に国連、ロシア、ウクライナ、トルコの4者会談で食料輸出合意したが、状況が改善するかは不透明である。こうした状況が世界規模のインフレにもつながっている。また、ウクライナの原子力発電所への攻撃がされていることも問題の1つ。サイバー攻撃で原発事故も起こすことで、核兵器と同等の被害を及ぼすこともできる。

ハイブリッド戦争では多面的な対応が必要

 ハイブリッド戦争では、日本がウクライナ役になっていた可能性があることを認識すべきである。ロシアは日本を米国の一部と考えており、ウクライナも欧米の手下と考えている。今後、日本が米国の代わりに攻撃される可能性もある。その脅威は、北方領土問題もかかわってくる。ロシアの諜報活動や北方領土での軍事演習などの見せつけ、日本海などでの中露共同歩調なども日本に対するあおり行為である。

 「ウクライナ問題から波及する安全保障について、いま一度考えるべきです。日本はサイバー攻撃に脆弱です。専守防衛にこだわらず、ホワイトハッカーなどで攻撃的立場を取る必要もあります。日本は情報リテラシーが低いことも問題で、優れた人材の育成、情報リテラシー能力の向上、国民の意識強化、サイバー衛生の対応が必要です」(廣瀬氏)。

 また、国際協調も重要。日米同盟ではサイバー領域もカバーしており、今後NATOやアジア諸国との協力も肝要になる。現在のサイバー攻撃は、一国レベルでの対応では不十分になっており、ハイブリッド戦争では多面的な対応が必要だ。『シャドウ・ウォー 中国・ロシアのハイブリッド戦争最前線』の著者でもあるジム・スキアットは、以下の9つの解決策を論じている。

(1)敵を知る

(2)レッドライン(超えてはいけない一線)を設ける

(3)敵が負担すべきコストを引き上げる

(4)防衛を強化する

(5)攻撃

(6)結果を警告する

(7)サイバー領域と宇宙のための新たな条約の締結

(8)同盟を維持して強化する

(9)リーダーシップ

 廣瀬氏は、「9項目に総合的に取り組んで、初めてハイブリッド戦争の脅威に立ち向かう準備ができるレベルです。ハイブリッド戦争をしているのはロシアだけではなく、米国、英国、イスラエル、中国などの方が歴史は長く、規模も大きいのです。ロシアは裏切られて続けてきたという意識がとても強く、被害妄想をより強めることも世界の安定には寄与しません。ロシア以外の国からの攻撃に対抗する準備も必要です」と締めくくった。

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