脱プラットフォームや自前化の動きは2サイドプラットフォーム論では説明できない(2/2 ページ)
プラットフォームという言葉は、英語の日常語から産業界で利用されるようになり、さらにIT産業や自動車産業で使われるようになった。この言葉をアカデミックの世界に持ち込んだのは日本の研究者である。プラットフォームの理論はどのように発展してきたのか。
根来氏は、「それぞれの企業が、プラットフォーマー(正確には媒介型PF)からパワーを取り戻したいと考えており、これを支えるビジネスが世界的に生まれているというのが、私が指摘したい新しい現象です。これを外注型プラットフォームと呼んでいます。外注型プラットフォームこそ、新しいビジネスチャンスであり、脱プラットフォームを支える重要な動きです」と話す。
アパレル業界では、すでにさまざまな機能について外注型プラットフォームが使われている。例えば、shopifyやBASEを使うことで、企業は自社サイトとしてECサイトを運営することができる。また、あるSaaS企業が提供する「販売スタッフがオンライン上でコーディネート投稿をすることで接客ができる機能」は、多くのアパレル企業のサービスに組み込まれている。従来の媒介型PFの場合、データはプラットフォーマーのもので、基本的に個別企業に提供されないが、外注型PFでは、アクセスデータや販売データを自社で管理することができるメットがある。また、ユニクロ、コカ・コーラ、無印などでは、アプリに自社QRコード決済が組み込まれているが、この種の自前決済機能はSaaS型でこの機能を提供している外注型PFが出現したことで、導入が容易になりつつある。
相互作用論としての理論化
いま起きているのは、媒介型プラットフォームに一部は依存しながら、時に外注型プラットフォームを利用して、自前のデジタル・マーケティング機能を強化していくことである。実は、媒介型PFと自前のデジタル・マーケティング機能の強化は、相互作用的に進化している。つまり、もともとは各社が行っていた機能(例:クーポン)をPFが担うようになり、一方ではPFの機能(例:決済機能)を取り戻そうする動き(例:自社電子マネーの導入)がある。
このような相互作用的使い分けが生じるのは、以下の理由だ。媒介型プラットフォームには圧倒的な集客力があり、さらにサイド間ネットワーク効果がある。一方、自前機能は、自社への囲い込みやデータ所有ができるがサイド間ネットワーク効果がないからだ。以上の現象を理論化、一般化すると、以下の図のような構造になる。
根来氏は、「媒介型プラットフォーマーと個別事業者の相互作用的進化が起きています。完全に依存するわけでも、完全に脱却するわけでもないということです。これがマクドナルドと媒介型プラットフォーマーや、スターバックスと媒介型プラットフォーマーの間で起きていることです。もちろん、自社システム開発による自前化もありますが、この現象が多くの企業に広がっていく時に重要になるのが、自前化を助ける外注型プラットフォーム企業という新たなPFの存在です」と話す。
いまや個別事業者がプラットフォームに依存するか、しないかではなく、プラットフォームは使わざるを得ない存在である。よりマクロ的に見れば、個別事業者を挟んで、媒介型プラットフォームと外注型プラットフォームが競争している。個別事業者には脱(媒介型)プラットフォームの動きがあり、個別事業者の自社機能強化を目指している。これを支える新たなビジネス(外注型PF)が生まれている。
「本日の話をまとめると、まず日本特有の現象の説明は、いまや海外発信にはふさわしくありません。海外でも観測できる現象の発信を試みることが必要です。私自身は、巨大ECモールの独占性への対抗やD2Cの成長など、欧米でも、日本でもある現象を説明する理論的パースペクティブを提案したいと考えています。それが、媒介型プラットフォームと個別企業の顧客接点機能が相互作用的に発展するモデル、そして個別企業の媒介型PF機能取り込みを助ける外注型PFの登場というわけです。また、本日は省略しますが、ネットワーク効果に関する新しい理論も考えています。これらを海外に発信するために、今後はできるだけ英語での情報発信に取り組んでいきたいと思っています」(根来氏)。
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