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親や自分が65歳以上になったら、絶対に知っておきたいお金についての大切な6つのこと老老介護で知っておきたいこと

認知症や転倒による寝たきりは、高齢になってくると突然訪れることも少なくない。親が高齢であるなら、急にそうなる可能性もあるので、ぜひお金のことについて話しておいてほしい。

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『老老介護で知っておきたいことのすべて 幸せな介護の入門書』

 認知症や転倒による寝たきりは、高齢になってくると突然訪れることも少なくありません。

 訪問看護ステーションを立ち上げるなど、介護の現場で高齢者と多くかかわってきた、看護・介護ジャーナリストの坪田康佑氏は「お金のこと、ましてや認知症や寝たきりになったらどうするかなどはなかなか話しづらいことです。ですが、いざそうなってから困っている人を多く見てきました。もし、親が高齢であるなら、急にそうなる可能性もあるので、ぜひお金のことについて話しておいてほしい」といいます。

 そこで、今回は同氏の著書『老老介護で知っておきたいことのすべて』から抜粋・加筆をし、親やご自身が高齢になる前に知っておきたいお金のことについて話します。

話してなかったために起こりうる「資産の凍結」

 銀行から認知症で判断能力が不十分とされ、資産が凍結された。判断能力はあるものの、寝たきり状態になって金融機関に行けない。こうした状況は、たとえ今は元気だとしても、近い将来に目を向けてみると、残念ながら誰しもに起こり得ることだと思います。

 実際、内閣府「平成29年度版高齢社会白書」によると2025年には約675万人(有病率18.5%)と5.4人に1人程度が認知症になると予測されていますし、寝たきりも推定300万人以上いると言われています。

 そんななかで、何も対策をしていないままだと、どうなってしまうでしょうか。

 認知症になって判断能力が不十分だと認められると、本人の資産を守るために、銀行口座からお金を引き出せなくなったり、不動産や有価証券の売却ができなくなったりする可能性があります。

 いわゆる「資産の凍結」が実行されるのです。そうなると、本人に必要な介護費用を引き出そうとしても、家族でさえも預貯金に手を出せなくなります。

 寝たきりの状態では、資産の凍結は行われませんが、本人が金融機関や不動産会社、行政機関との契約・手続きなどを行うことが難しくなり、財産の管理に手が行き届かなくなってしまいかねません。

親族間トラブルになる前に早めの対処を

 判断能力が不十分とされ、資産が凍結されてしまうと、国が定めた「成年後見制度」の「法定後見」に沿って成年後見人を選任し、成年後見人が本人に代わって財産の管理や必要な介護サービスの契約・手続きなどを行うことになります。

 これによって凍結された資産を再び管理できるようになります。

 しかし、「法定後見」の後見人は家庭裁判所によって選任されるため、必ずしも親族がなるわけではありません。

 親族間のトラブルを防ぐためにも、専門知識を持った弁護士や司法書士、社会福祉士などの第三者が選任されるケースが増えています。

 また、後見人には積極的な資産運用や相続対策はできないなどの制約があり、後見人が家庭裁判所に財産管理の状況を毎年報告する義務も生じます。

 第三者を後見人とする場合は、その報酬を本人の財産から支払うことになります。

 こうしたデメリットがあることも十分にふまえ、判断能力が十分にあるうちに、もしものときのためにどんな備えができるのかを知り、手続きを進めておくことが大切です。

 もしも、親が介護を受けているのであれば、親が住んでいる地域の介護地域包括支援センターに相談してもよいですし、金融機関などに相談してもよいでしょう。

 検討しておきたいのは次の6つのようなことです。

いざというときのための「後見人制度」

財産の状況を把握・共有しておく

 年金の受給額や貯金額、不動産、有価証券、負債などの状況をあらためて洗い出し、口座や保険契約などの情報とあわせて夫婦やお子さん、親族で共有しておきましょう。

「後見人」の選任を検討する

 成年後見制度には、前述した家庭裁判所が選任する「法定後見」と、判断能力が十分あるうちに本人が後見人にしたい人を選ぶ「任意後見」があります。

 「任意後見」の場合、本人が選ぶことができますが、誰を選ぶのか、財産をどう管理するのかなど、親族間でもめる要因にもなりかねないので、親族で十分な話し合いを行いましょう。

「家族信託」を利用して家族に託す

 本人の不動産や貯金などの資産を信頼できる家族に託し、管理や運用、処分を任せるという仕組みです。

 積極的な資産運用を可能とし、財産から生じた利益を本人の生活費や介護費用に充てることができます。

認知症対応の信託商品を検討する

 信託銀行が認知症対策に特化した信託商品を提供していますので、利用を検討してみるとよいでしょう。信託商品を契約すると、代理人を指定したうえで、銀行に規定以上の金銭を預け、運用を託します。

 その後、本人が認知症と診断された場合、代理人が医療・介護費用や生活費などを引き出せるようになります。

キャッシュカードを家族共有にしておく

代理人キャッシュカード/代理人指名手続きを行う

 銀行は名義人本人の財産を守るために、原則として本人以外による出金は受け付けていません。1枚のキャッシュカードと暗証番号を家族で共有して利用することも、名義人本人の同意があったとしても銀行の取引ルールに反する可能性がありますので、避けたほうが無難です。

 そこで、夫婦2人で銀行口座を共有する際には、口座名義人本人が銀行窓口にて代理人キャッシュカードや代理人指名手続きを行うとよいでしょう多くの銀行では、代理人キャッシュカード(家族カード)を申請・発行すれば、名義人でなくてもATM等で口座のお金を引き出すことができます。

 例えば夫が口座名義人の場合、妻の代理人カードを発行すれば、夫婦それぞれが同一口座のキャッシュカードを所有できるということです。

 また、口座名義人が代理人指名手続きを行えば、名義人の指名を受けた代理人(配偶者か二親等以内の親族)が預金の入出金や金融商品の売却などを行うことができます。

生命保険の指定代理請求制度を利用する

 本人が事故や病気で意思表示ができない場合などに、あらかじめ指定した代理人が保険金の請求を行えるようにする制度です。

 契約者の代わりに家族が契約内容を確認できるようにする「家族登録制度」もあります。

 生命保険の内容照会や保険金請求は原則として本人しかできないので、もしもに備えて手続きしておきましょう。


 そもそもなかなか家族間でしづらいお金の話、ましてや寝たきりとか、認知症になったときのことなど、なかなか切り出しにくい方も少なくないのではないでしょうか。

 ですが、とても大事な話です。「近所の人が、認知症になってしまって『資産凍結』されたらしいよ?」など、世間話の一環から切り出して、「うちはどうする」など、帰省などで家族が一堂に会するタイミングで切り出してみてはいかがでしょうか。

著者プロフィール:坪田康佑(つぼた こうすけ)

看護師 看護・介護ジャーナリスト、国家資格:看護師・保健師・国会議員政策担当秘書など

2005年慶應義塾大学看護医療学部1期卒業。米国Canisius大学MBAを取得。

国際医療福祉大学医療福祉ジャーナリズム分野博士課程在籍。

ETIC社会起業塾を経て、無医地区への医療提供体制づくりに取り組む。

2019年診療所や訪問看護ステーションなど全事業承継。

現在は、訪問看護師向け雑誌などで連載や高齢者向け新規事業開発に取り組む。

開発に関わった三角巾は、グッドデザイン賞を受賞する。


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