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戦略が動き出す仕組み──LayerXに学ぶBizOps設計のリアルビジネスとITを“動かす”仕組み──BizOpsという選択肢(2/2 ページ)

LayerX社は早くからBizOpsという機能を明確に設計し、属人的な調整業務を“再現可能な仕組み”へと進化させてきた。その取り組みを見てみよう。

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第4章 BizOps実践への「小さな一歩」:戦略を「再現可能」にするための思考整理

 LayerXのBizOpsが、単なる「なんでも屋」ではなく「戦略を動かす仕組みの設計者」として機能している背景には、彼らが実践している、ある種の「思考の型」があります。これは特別なツールや大掛かりな変革を必要とせず、今日から誰でも始められ、しかしその効果は絶大とも言える「小さな一歩」です。

 それは、目の前の業務や施策を、「再現可能な構造」として捉え直し、その設計図を言語化することです。

 具体的には、ある施策や業務プロセスに着手する際、以下の問いに徹底的に自問自答し、簡潔にでも良いのでドキュメントとして整理することから始めます。

1、この施策の「真の目的」は何か? (なぜ、これをやるのか? 最終的に何を実現したいのか?)

2、現状の「ボトルネック」はどこにあるのか? (なぜうまくいっていないのか? 属人化している部分はどこか?)

3、理想の「プロセス」はどのような流れか? (誰が、どのタイミングで、何を行い、次へ引き渡すのか?)

4、このプロセスを「再現可能にする要素」は何か? (特定の個人に依存せず、誰でも同じ品質で実行できるために何が必要か? ツール、データ、チェックリスト、判断基準など)

5、「テクノロジー」で代替・効率化できる部分はどこか? (手作業の部分をシステムやAIに任せられないか?)

6、「計測すべきデータ」は何か? (この仕組みが機能しているか、どうすれば客観的に判断できるか?)

 この「思考の型」をドキュメントとして言語化し、関係者間で共有します。

 一見すると当たり前のようですが、多くの組織では「目的」が曖昧なまま「手段」に飛びついたり、「理想のプロセス」が個人の頭の中にしかなかったり、あるいは「再現性」を意識せずに属人的な努力で乗り切ろうとしがちです。

 LayerXのBizOpsが「仕組み」で事業を加速させているのは、まさにこの「再現可能な構造」を徹底的に言語化し、テクノロジーで実装しているからに他なりません。あなたの組織の「なんでも屋」が、この「思考の型」を身に付け、目の前の業務を「設計図」として捉え直すこと。それが、BizOpsへの確かな第一歩となるはずです。

第5章 おわりに――戦略を動かすのは仕組み

 「戦略を描くこと」と「戦略が実行されること」のあいだには、しばしば深い溝があります。

  優れたビジョンや意欲的なスローガンがあっても、現場に届かず、成果につながらない─―多くの人がそんな経験をしたのではないでしょうか。

 では、その溝を埋めるものは何か。

 それは、仕組み=構造の設計です。

 属人的な努力や偶発的な成功に頼るのではなく、構想を「再現性ある流れ」に変える構造を作ること。

 誰がやっても、どんな状況でも、ある程度の品質で動かせる仕組みを整える、それこそが、戦略の“実行力”を支える土台です。

 LayerXの事例が教えてくれるのは、まさにこの「構造こそが成果を生む」という実感です。

 現場から経営までをつなぐ設計力、ナレッジやデータを活用した情報の流通、属人化を避ける運用設計など、どれもが、「意志やスローガンだけでは動かない現実」を踏まえた、極めて実践的な試みでした。

 もちろん、全てを完璧に仕組みに落とし込むのは簡単ではありません。それでも、「仕組みで動かす」ことを前提に、設計し続ける組織とそうでない組織とでは、1年後、3年後に見える風景はまったく異なるはずです。

 仕組みは人を助け、人は仕組みによって動けるようになります。

 その積み重ねが、組織を持続可能なものにし、意志ある戦略を“動くもの”に変えていきます。

 戦略を動かすのは、意志ではなく、仕組みです。

 そのための第一歩として、「BizOps」という職能に目を向ける価値は、ますます高まっているのではないでしょうか。

次回予告「マネーフォワード BizOpsが挑む「現場起点」の事業成長」

 次回は、幅広い金融SaaSプロダクトを展開し、急速に成長を続けるマネーフォワードのBizOpsに迫ります。

 複雑化する事業の最前線で、いかにして現場の課題に深く向き合い、信頼を築き、事業を「仕組み」で動かしているのか。時に困難な状況を乗り越えながらも推進した大規模プロジェクトの裏側や、多岐にわたるサービス群を支える「世界でもトップクラスのオペレーション」への挑戦を通して、荒井氏が語るBizOpsの本質をお届けします。

著者プロフィール:望月 茉梨藻(もちづき まりも)

1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。


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