「管理」から「共有」へ──加藤芳久氏が説く、シェアリングリーダー」の育て方:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
売上目標に届かない、部下のやる気が見えない、AIを導入したのに成果が出ない──こうした悩みを抱えるリーダーは少なくない。実は、その根本原因は意外なところにあった。
AI時代に求められるリーダーの5つの新たな行動様式
「皆さん、完璧なリーダーを演じるのは、もうやめませんか?」──加藤氏はこう投げかける。そして、多くのリーダーが「弱みを見せてはいけない」「常に答えを持っていなければならない」というプレッシャーを感じている現状に対し、根本的な転換を提案した。
シェアリングリーダーには、従来とは全く異なる5つの行動様式があるという。
1. 自ら率先する
高みの見物で指示するのではなく、自ら実践し、背中で見せる。「やってみろ」ではなく「一緒にやろう」と言えるリーダーだ。
2. 部下を信じる
マイクロマネジメントではなく、信じて任せ切る。人は信じられたら、その信頼に応えようとするものだ。
3. 裏表を作らない
鎧を脱ぎ、弱みや苦手なことを自己開示する。できるリーダーが見せる弱みは、むしろチャーミングであり、周囲の助けを引き出す効果がある。
4. 人の価値観を尊重する
「違い」は「間違い」ではない。多様な価値観を尊重し、理念という共通の接着剤でチームを束ねる。
5. 部下の失敗を喜べる
「失敗したね、でもこれでまた成長できるね」と、挑戦そのものを称賛し、成長の機会として捉える。
こうしたリーダーがいる組織では、メンバーは安心して挑戦できる。3年先、5年先の先輩が、不平不満を言うのではなく、生き生きと仕事に取り組んでいれば、「あの人のようになりたい」という目標が生まれ、困難な仕事にも前向きに取り組める。逆に、ロールモデル不在の組織からは、未来を描けずに人が去っていくのだ。
情報共有から「感情共有」の時代へ──AIには決してできないリーダーの役割
加藤氏の提言は、AI時代におけるリーダーの役割を鮮やかに浮き彫りにした。
「これからは情報共有から感情共有の時代、インフォメーションからパッション、エモーションの時代に変わります」(加藤氏)
確かに、タスク管理や情報整理といった「氷山モデル」の目に見える部分は、今後ますますAIに代替されていくだろう。しかし、AIには決してできないことがある──それは人の心を動かすことだ。
「自分の情熱をどう届けるか。自分のために頑張ったことが、会社のためになり、巡り巡って世のため人のためになる。その“ための一致”を実感できる組織を作ることが、人心を掌握し、人を巻き込んでいく本質です」(加藤氏)
この講演で示された「氷山モデル」や「組織の成功循環モデル」は、単なる理論ではない。加藤氏が支援した企業では、離職率が3分の1に激減し、4年目以降はゼロになった例や、過去最高益を更新した企業が続出したという実績が、その有効性を物語っている。
なぜこれほどまでの成果が生まれるのか。その答えは、人間の本質的な感情やモチベーションの源泉に働きかけているからだ。業種や業態、企業の規模を問わず有効であると加藤氏は確信している。
質疑応答では、「急に態度を変えると周囲から浮いてしまうのではないか」という懸念の声が上がった。これに対し加藤氏は、「『セミナーで聞いてきたから試してみる』と言えばいいんです」と笑いながら答え、変化への第一歩を踏み出すハードルを下げた。
まず自身の弱みを自己開示することから始める。完璧なリーダーを演じる必要はない。むしろ、不完全さを認め、仲間を頼るリーダーのもとにこそ、人の力は結集する。
IT部門のリーダーたちは、日々の業務に追われる中で、つい目に見えるタスクや進捗管理に終始しがちだ。しかし、真の変革と持続的な成果を生み出すためには、一度立ち止まり、自らのチームの「関係の質」や、共有すべき「理念」について深く考える必要がある。
複雑で予測不可能な時代を乗り越えるための、最も人間的な、そして最も強力なリーダーシップの実践が、いま求められている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- キーエンス出身CEOが語るシン・マーケットイン型付加価値組織への転換方法
- インサイトがマーケティング戦略を成功させる3つの秘訣――桶谷功氏が語る「問い」と「共創」が切り拓く企業成長
- 睡眠の質をあげることがうつリスク削減&生産性向上につながる――睡眠を改善するための超熟睡トレーニング
- BBB時代のDX推進において「アルムナイ」が企業にとって貴重なパートナーになる
- 若手を育て、活かす“上司力”により、Z世代社員の安易な早期離職激減を目指す
- 単純に示すのが「禅」――無駄なものをそぎ落とすと最終的に本質が見えてくる
- ビジネスマンが睡眠を向上させ能力を進化させるために知っておくべき、7つの睡眠戦略
