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第45回:ほとんどの営業リーダーが“戦略の立て方”を勘違いしている 伸びる企業・伸びない企業の明暗を分ける戦略展開・組織作りのポイントはマネジメント力を科学する(1/2 ページ)

企業の指標として、「経常利益○%」「増収増益」といった数字が取り上げられることが多いが、「自社は何を為すべきか」「社会にどう貢献するか」が伴わなければ本末転倒ではないだろうか。

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 エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。AI時代に難易度を増していると言われる"営業力"強化をテーマに、東京工業大学の大学院の特任教授を務め、日本で初めてのMBAでの営業カリキュラムを受け持つ北澤孝太郎氏をゲストに迎え、当連載筆者の経営者JP代表・井上との対談の内容からお届けする、第3回です。(2024年5月14日(火)開催「経営者力診断スペシャルトークライブ:これからの会社の成長の鍵を握る![決定版]営業トップはこう戦え!」)

かつての「営業部」と、今の「営業部」の違い

 「営業は“業を営む”こと」この北澤さんからの言葉には、あらためてハッとさせられます。もともと「営業」という語が当てられたときから、単なるセールス行為にとどまらず、ビジネス全体をつくる営みを意味していたのではないか──。

 北澤さんは、「かつて営業部の中にはマーケティングも経理も商品企画もあった。分業化が進む中でそれぞれが独立し、結果として営業に残ったのは主としてセールス機能になった」と振り返ります(物流の受け渡しは分かれていた場合もあるが、大半の機能は営業内にあったという趣旨)。

 私としては、いまのくくりで言えば、その多くが事業部に移ったとも受け止めています。

「北澤モデル」と“プロスペリティ”の呪縛

 北澤さんが自著の中で解説している「北澤モデル」があります。

 まず「自分(自社)は何をしたいのか」という“思い”を明確にすします。ここで問うのは“How”ではありません。ところが日本では長らく、“思い”が「いくら稼ぎたいか」というプロスペリティ(繁栄願望)に置き換えられてきました。

 「経常利益○%」「増収増益」といった指標がメディアで過度に取り上げられる構図も、この呪縛を強めてきたといえます。

 本来は、「自社は何を為すべきか」「社会にどう貢献するか」「なぜ顧客の役に立てるのか」を鮮明に語るべきです。北澤さんは、その観点から上場の呪縛を外し価値転換に踏み切る企業(例:ベネッセの上場廃止)にも触れ、「水面下の動きを丁寧に説明しないメディア側の課題もある」と指摘します。

多くの営業部長が勘違いしている「戦略」

 北澤さんは続けます。まず“思い”を据え、それを実現するために必要な知識・習慣・能力を特定し、そこから戦略を設計します。

 ところが現場では、「利益や売上のための戦略」と捉える勘違いが横行しています。「何をやるのか」を決め、その実行のために戦略をつくるのが本筋なのに、営業部長になっても「売上をいくら上げるか」に矮小(わいしょう)化されがちです。結果、日本を“売れない体質”にしているとまで言います。

 私も強く同意します。リチャード・P・ルメルト氏の『良い戦略、悪い戦略』でも、“前年比目標の達成計画”は戦略ではないとはっきり述べられています。歴史的に日本は貧しく、まず繁栄を求めた時代背景がありましたが、いまの若い世代は既に多くを手に入れ、「稼ぐ」よりも「やりたいこと」を優先する傾向が明確です。その前で「売上、売上」と言っても、白けられてしまいます。

伸びる企業・伸びない企業の分岐点

 メディアの「対前年度○%」偏重は、私も同感です。数字は大事ですが、「何のために拡大するのか」が伴わなければ本末転倒です。

 北澤さんの授業では、上場済み・上場直前の起業家を毎年ゲストに迎えるそうですが、そこで見える明確な分岐はこうです。

 上場自体を目的化し、達成後に生活をステータス化して終わるケースは伸びにくく、一方で、ミッションを強く掲げ、調達資金を再投資して次の成長に向かう企業は伸びます。まさにここが差になります。

優秀な営業課長を育てる3ポイント

 全体像が見えたところで、営業課長はどうあるべきか。北澤さんは、以前から例に挙げる「プラトーン/小隊」の比喩で語ります。

 営業部長が“外部統合”とイノベーションの最前線に立つという前提があるなら、営業課長は小隊をピカピカにする役割、すなわち

  • マネジメント=任務遂行のためのしくみ運用
  • リーダーシップ=環境変化への機動的対応
  • 人材育成=個とチームの力を底上げ

の3点を、愚直に回すことが肝要だと説きます。

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