高校野球監督の指導法から学ぶ問われるコーチング力(2/2 ページ)

» 2009年08月13日 08時30分 公開
[細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia]
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練習の半分は生徒の自由に

 リーダーにとってもう1つ重要なのは、任せてかかわるということである。「リーダーは部下の仕事にあまり口を出さずに任せたほうがいい」ということをよく耳にする。確かに部下にある程度任せることは大切である。ただし、任せっぱなしでは成果が上がらない。

 吉田監督は、練習メニューの半分を自分で組み立て、残り半分は選手に決めさせたという。始業前の朝の練習では、監督自身の求める基準に達する基礎体力を付けさせるために、生徒たちに有無を言わさず走らせる。一方、放課後の練習は生徒たちのやりたいことをやらせるという。この取り組みを始めたのは、「人生の中で最も学力が伸びたときはいつだったろうか」と自分自身を振り返り、周りに言われたからではなく、自分から「やらなきゃ」と一念発起したときだったと気付いたからだという。

 とはいえ、すべてを生徒に任せると練習のレベルが下がってしまう可能性があるので、半分を生徒の自主性に委ねることにしたのだ。この方法で練習を行うようになってからすぐに、生徒たちが強くなっていると感じるようになった。試合に負けたら生徒たちは少なくとも半分は自分の責任だと思い、敗戦の教訓を自主的にその後の練習や次の試合に生かそうとするようになったのである。

声を掛け、奮い立たせる

 ビジネスの現場も同じである。部下に仕事を任せることは大事だが、任せっぱなしにせずに、関与していくことが人材育成の成否を分ける。仕事の進ちょく状況を見ながら、「今はどうなっている?」「うまく進んでいるか?」と声を掛けるのである。人間は元々弱いものである。任されて仕事をしていても、一人でずっとやっていると、甘えの気持ちが生じたり、モチベーションが下がってしまったりすることも少なくない。そういうときこそリーダーから声を掛けられることで、やる気を奮い立たせ、気を引き締めて取り組むことができるのだ。

 また、仕事などを任せる際には、部下の強みに合わせることが重要である。清峰高校は県立なので、推薦などの制度を利用して効率的に優秀な人材を集める私立の高校に比べると、人材獲得の点では不利な環境にある。しかし、吉田監督は、彼らの持てる素質を最大限に引き出し、能力を開花させた。「君ならできる」と言い続け、しかる際には言葉を選び、「心がぶれている」という言い方をした。その言葉には反論しづらいものがあり、生徒は「はっ」とわれに返るという。

 ビジネスの現場でも、「君は伸びる。君はもっともっと素質がある。君らしくないね。君にはもっと力がある」と、認めること、褒めることを織り交ぜながらしかることを勧めたい。

 最後に、リーダーとして心に留めて欲しいことがある。それは裏方やサポートをしてくれる人たちへの配慮である。チームは成果を上げるトップ選手たちだけで成り立つものではない。それをサポートする人たちが数多くいる。サポートをしてくれる人、裏方の人を粗末にしていたら、チームとして同じ方向に進むことはできない。吉田監督はレギュラーよりも控えの選手とのコミュニケーションを多く心掛けたという。九州地区大会などで優勝したときには控えの選手だけに食事をおごったこともあったそうだ。なぜこのようなことをするかといえば、部員全員が同じ目標に向かって進み、一人一人が自分の持ち味と能力を発揮しなければチームが強くならないと考えているからだ。

 ビジネスにおいても、リーダーには、最前線で頑張る社員には厳しく、サポートしているメンバーには気を配りながら、満遍なく声を掛けてほしい。そうすることで、チーム一丸となって成果を上げられるようになるはずだ。

 高校野球の現場の話を通して、リーダーの役割を考えてみた。今夏も選手たちの熱き戦いがとても楽しみである。


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著者プロフィール

細川馨(ほそかわ かおる)

ビジネスコーチ株式会社代表取締役

外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。



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