スタウトに込められた情熱の歴史――「ギネスの哲学」:経営のヒントになる1冊
福利厚生の一環として独身社員にデート代を補助する、それがギネスビールを作り出している会社の経営方針なのだ。
読者の皆さんは「ギネス」といえば何を思い浮かべるだろうか。おそらく大半の方が「ギネスビール」、あるいは世界一の記録を集めた「ギネスブック」と答えるだろう。だがギネスを生み出した企業(旧ギネス社・現ディアジオ社、日本ではキリン・ディアジオ社)が、1759年の創業以来、数々の社会貢献事業を行ってきたことはあまり知られていない。
『ギネスの哲学 地域を愛し、世界から愛される企業の250年』 著者:スティーヴン・マンスフィールド 訳者:おおしまゆたか、定価:2310円(税込)、体裁:四六判上製 336ページ、発行:2012年3月、英治出版
アイルランド初の日曜学校の創設、地域社会の貧困削減事業、大飢饉の対策といった地域社会に貢献してきただけでなく、1日あたり2パイントまで無料でギネスビールを提供したり、独身社員のデート代まで補助したりという福利厚生の整備など、事業で得た利益をあらゆる場面において還元してきたことが明らかになっている。しかもこれらはすべて、CSR(企業の社会的責任)という言葉が生まれるはるか以前の話だ。
社会貢献だけでなく、ビジネスという点においてもギネスは突出していた。イギリスの小さな属国であったアイルランドから生まれたビール「ギネス」は、いまや生産49カ国、販売150カ国という、まぎれもなく世界トップクラスの商品となっている。しかも、創業から160年間、1920年代までは広告宣伝をいっさい行っていない。それは商品の質のみの向上を目的として数々の技術革新を行い、顧客との密接な関係を大事にしてきたからにほかならない。
そもそも、あまりビールを好きではなかった米国のノンフィクション作家、スティーヴン・マンスフィールドが本書を著したのは、この企業の稀有な歴史に魅せられたからだ。
「儲けたければ、まわりを儲けさせる人であれ」
ギネスの経営者の一人が語ったとされるこの言葉が、「ギネスの哲学」を端的に表していると著者は言う。この哲学、あるいはビジョンは現代まで脈々と受け継がれている。これこそが世界に愛されるブランドを作り上げたゆえんだろう。この言葉はビジネスそのものの本質を突いている。金を儲けたから社会貢献するのではない。まず他者に寄与してこそ自らの繁栄にもつながるという考え方は、経済や社会の持続性を考えるときに欠かせない視点である。
あらゆる企業がビジョンを持っているものの、それを体現できている企業はどれくらいあるのだろうか。決まり文句の言葉に堕していないだろうか。250年の間絶えることなく、ローカルからグローバルへ成長し、多くの人々を救い、世界の中で揺るぎないブランドを確立したギネスの物語は、これからの企業経営にも学ぶところは多いはずだ。
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