十数年前と比べてIT技術は飛躍的に進化し、ユーザーも賢くなった。ところが情報システムの開発や企画に携わるIT部門がまるで進歩のないことに警鐘を鳴らす。
ITmedia エグゼクティブの会員に対するインタビュー企画「エグゼクティブ会員の横顔」。第4回は、IT部門の現場が抱える苦悩や組織の問題などを実体験に基づき記した連載『三方一両得のIT論 IT部門がもう一度「力」をつける時』で人気を博した、ウイングアーク テクノロジーズ 事業統括本部 バリューエンジニアリング部長の岡政次氏に話を聞いた。
――現在の業務内容について教えてください。
岡 今年3月に組織改編が行われ、新たに立ち上がったバリューエンジニアリング部に所属しています。製品をそのまま販売するのではなく、製品を使って顧客に価値を感じてもらうためのソリューションを生み出す部門です。当社の製品は高いシェアを持つものの、ユーザー会などで顧客の声を聞くと、機能や使い方の説明が行き届いていませんでした。価値を感じる使い方を顧客自らが掘り起こすことは難しいため、その部分まで踏み込んで提案すべきだという方針が出たわけです。
これまでは、製品を売る側の認識と使う側の認識にギャップがありました。顧客の目的は製品を買うことではなく課題を解決することなので、そのために当社がどのようなお手伝いができるのかを考える必要があります。現在のような不景気では予算が付かず、興味を持ってもらえることをやらなければ今までのようには売れません。逆を言えば、不景気を一つのきっかけに新たな領域に打って出たわけです。
――業務における課題や関心事はありますか。
岡 直近の関心はSaaS(サービスとしてのソフトウェア)やクラウドコンピューティングです。これまでは不透明なものでしたが、複合的なサービスが登場したことで、ようやく使い方が見えてきました。
日本の製造業や小売業において、特に中小企業や零細企業はほとんどの取引業務を電話やFAXといった紙ベースで行っています。これがビジネスの速度を著しく落としています。物理的なものでしか取引できない状況がネットワーク上で取引できるように変われば、業務は圧倒的に効率化します。従来は唯一の手段がEDI(Electronic Data Interchange:企業間での電子データ交換)でしたが、企業体力のある中堅、大企業でなければ困難でした。こうした問題をSaaSが解決してくれるのではないかと感じています。
ただし、コスト面でのメリットは疑問です。一時的な投資が少なく専門のIT知識がなくても導入できるというメリットはありますが、コスト的にはまだ割高な気がします。
ユーザーもクラウドやSaaSに関心があるようですが、実務で使うまでには至っていません。仮想化も同様です。仮想化技術は実用ベースになっていますが、本番環境での運用についてはまだ慎重に見ています。複数のアプリケーションを1つの仮想化プラットフォームに乗せる怖さ、すなわちサービスがすべて止まるリスクというのを、システム運用者の誰しもが感じています。仮想化やクラウドが普及するためのポイントは運用の品質です。日本の品質は高く、特に大企業が望む運用レベルが実現できるかどうかが鍵となります。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授