顧客や消費者の本音を徹底的に掘り下げる――イケア・ジャパンの成長を支える若き日本人幹部の比留間氏ビジネスイノベーターの群像(1/2 ページ)

北欧のシンプルなデザインと低価格で人気を集める世界最大の家具チェーン「IKEA(イケア)」。日本市場の進出は直営店として初めてで2006年から首都圏、関西などに5店舗を展開する。「快適な家」を切り口にした斬新なライフスタイル提案の源泉には、従業員の仕事と生活を尊重する真のワーク・ライフ・バランスの追求がある。

» 2012年02月21日 08時03分 公開
[聞き手:福盛田結花、文:三田真美,ITmedia]

 スウェーデンに本社を置くイケアは「より快適な毎日をより多くの方々に」というビジョンを掲げ、世界41カ国で事業を展開する。グローバルで統一したイメージを大事にしてきたが、欧米とは住環境が異なる日本では、独自の提案も少なくない。最近では、3LDKの空間にソファやテーブルなどをマンションのモデルルームよろしく設置した展示が話題だ。発案したのは、IKEA港北ストアマネジャーの比留間育洋氏である。

「オシャレだけどウチには無理」という声が次の顧客に

「間取り提案は、大阪・鶴浜ストア時代に取り組んだもの。イケアも当初は、物珍しさとブランド力でお客様を引きつけたが、『オシャレだけどウチの小さな部屋には、こんな大きなソファは置けないわ』という本音も見え隠れする。そこで現実味ある広さで快適な暮らしのアイデアを見せれば納得してもらえるのでは、と考えた」(比留間氏)

狭い日本のLDKを“目からウロコ”の工夫で変える

イケア・ジャパンの比留間氏

 IKEA鶴浜では店内に平米数の異なる3種のLDKセットを展示。家具の大きさが問題ではなく、配置の工夫をすれば、狭い部屋でもすっきり暮らせるといういわば“目からウロコ”の提案をしてみせた。

 来店客は素直に驚きを示す一方で、意外な反応も見せた。少なからずの人が、テーブルとソファの距離を細かく測っていたのだ。それなりにスペースがある欧米人はまずそういうことはしないという。ただ、そうした行為自体が自宅の居間を変えたいという気持ちの表れでもあり、さらなる提案に弾みがついた。

この取り組みは評判を呼び、イケア・ジャパンとして一層、日本の暮らしに密着した提案を模索するきっかけにもなった。3LDKの展示はIKEA船橋を皮切りに2011年12月から順次、全店舗で展開している。

一歩先を行きつつ、現実味ある提案がカギ

 小さい間取りに家具を配置してみせる手法は日本独自の取り組みでもある。2006年にも東京・外苑前の銀杏並木に4.5畳の小部屋をたくさん設置して話題を呼んだ。

 「街頭は認知度アップによいが、店舗ではより現実味ある提案が必要。展示には一つひとつテーマがあり、よく見ると細かな収納やレイアウトの工夫がある。そこにもっと気づいてもらう工夫もしたい。また世界的にスモール・スペース・リビングへの需要が高まっており、日本の取り組みが海外を先取りする実験にもなる」(比留間氏)

 イケアにはグローバルで共通の厳守すべきルールも多い。どの国、どの都市にあっても、店舗の外観は青と黄というスウェーデンの国旗色に塗られ、日本でもパリでもニューヨークでも店内に漂う空気感は、ほぼ同じである。

マネジメントの4割は女性、多様性は当たり前

 とはいえ、日本という成熟した消費文化を持つ国には通用しない部分も多い。実際に80年代の第一次進出では市場に適応する前に撤退をよぎなくされた。そうした経緯もあり2006年の再進出以降は、慎重な現地化(ローカライズ)により日本のマーケットと消費者に学ぶ姿勢に転換した。冒頭の間取り提案もその一つでこうした地道な取り組みが成功の要因でもある。

 「イケアはダイバーシティ(多様性)があり管理職の4割が女性。多様な目線で市場の声を吸い上げる風土がある。とはいえスウェーデン人に日本のことは分からないので、やりたいと言ってやらせてもらうしかない。実際にアイデアがあってきちんと提案できれば必ずチャレンジさせてくれる柔軟さが常にある」(比留間氏)

 そう語る比留間氏の言葉には説得力がある。比留間氏が入社したのは、28歳のとき。高校、大学と米国に7年間留学し、外資系エンタテイメント企業のフード部門を経て、IKEA船橋の開業スタッフとして1号店の飲食部門を任された。

 「飲食部門は、本流の家具ではなく、徹底的に現地化する必要もあり、規則もなかったので食材調達や価格設定、メニューなどすべてがチャレンジだった。何をすればよいのか、五里霧中でひたすら外に出かけてはいろんな店を観察したり、食べ歩いたりする中で形にした」(比留間氏)

 イケアファンには買い物ついでに食事を楽しむ人も多い。2階のレストランでは北欧風メニューが味わえるほか、1階のスタンドではホットドック(100円)、ソフトクリーム(50円)と驚くべき安さで提供。北欧料理に使われる食材なども販売し、週末になれば家族連れで大賑わいとなる。

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