日本車メーカーは“世界最強”であり続けられるのか?:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
戦後、日本の代表的な産業となるまでに発展を遂げた自動車産業。その競争力の秘密は果たしてどこにあるのか。また、今後も競争力を保ち続けることはできるのか。
設計段階で差別化を図った日本車メーカー
実際に、自動車開発の現場ではすでにほとんどの工程でITツールが利用されており、自動車のデザイン確認や、社内の中でハンドルやシフトレバーをどのように配置すべきかの検討のために緻密な3Dグラフィックが活用されている。衝突テストも実際の車体を用いることなく、シミュレーションで仮想的に行われているほどだ。
加えて、日本の自動車メーカーは開発の効率化と他社に対する先行開発の強化を推進するために、デジタル技術をフロントローディング型の製品開発のために積極的に用いてきた。従来であれば試作後に実施していた検討課題を、試作品のない設計初期にデータを使って検討することで、できるだけ早い段階で問題点を洗い出し、初期段階から設計品質を高めることに活用してきたわけだ。
「開発の早い段階であればあるほど、開発コストをより多く削減できる余地が残されている。日本車メーカーは、いわば開発工程における競争力を着々と高めることで大きな力を手に入れることに成功した」(三澤氏)
一方で、ブランドの集中化と差別化も徹底的に推し進めてきた。例えば米国メーカーがいくつもの車種をラインアップに揃える中で、トヨタ自動車は米国市場で「レクサス」「トヨタ」「サイオン」の3車種に絞りリリース。中でも若者をターゲットにしたサイオンでは、販売をインターネットだけに限定するとともに、すでに日本で開発した車種の設計を流用することでマーケティングコストと開発コストの大幅削減を実現している。
“先行開発型”への脱却が生き残りの鍵に
こうした取り組みによって成功を収めてきた日本の自動車メーカーだが、今後に目をやると課題も残されているという。その1つが、継続的な先行開発の実現だ。
日本の自動車メーカーは過去、ドラムディスクブレーキやオートマチックトランスミッション、4輪ディスクブレーキなど、海外メーカーが先行して開発した技術を自社製品に取り込む、いわゆるキャッチアップ型製品開発を進めることで成長を遂げてきた。だが、ハイブリッド技術を独自開発するまでに至ったことで、「過去の開発手法から脱却し、先行開発に力を入れることが不可欠な状況」(三澤氏)となっている。
三澤氏によると、こうした状況を踏まえてすでに日本車メーカーは各種の対策を講じているという。先行開発のために25%にも上る技術者を割いているのもその1つ。また、部品メーカーとの共同の先行開発も積極的に進めている。例えば、トヨタ自動車が出願する特許のうち、共同出願件数の比率は右肩上がりに伸びているのが実情だ。
ただし、意外な部分に落とし穴がある危険性を三澤氏は指摘する。
「ソフトウェア産業の全売り上げに対する研究開発費の比率が15%であるのに対して、自動車産業の比率は4%に過ぎない。自動車はもはや電子機器の塊と言っていいほど。この比率が適正か否かを今後、見極める必要があるだろう」
戦後、世界に冠たる存在にまで成長を遂げた日本の自動車産業。だが、BRICsなど経済発展が進む新たなライバルが相次ぎ登場する中で、その存在感を維持しつづけるために更なる革新が求められていることだけは確かなようだ。
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