製造業に求められるこれからのIT戦略とは:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
グローバルなビジネス活動が本格化する中で、グローバルなシステムの導入に問題を抱えている企業も少なくない。日本の製造業がより競争力を強化するためのIT整備のポイントとは?
BOMの運用は厳格に実施することが不可欠
製造業ならではの課題の1つとして浅利氏が講演で触れたのが部品表(BOM)の統合だ。
もともとは1つであったBOMが、個々の部署のニーズに応じて情報に手が加えられることで、部門ごとに独自を整備するというケースは少なくない。ただし、その場合にはBOMをメンテナンスするために、本来よりも多くのコストと労力が必要とされ、情報の一貫性を保つことが困難になるという弊害が発生する。もっとも、浅利氏はBOMの一元化の重要性は認めつつも、複数の部品表の存在を決して否定はしないという。
「業務効率を考えれば、確かに個々の業務ごとにBOMを持つことの有用性は認めざるを得ない」(浅利氏)
ただし、複数のBOMを用いる場合には、次の4点に注意する必要があるという。(1)それぞれの用途ごとのオペレーションに留意したコード体系になっているか、(2)情報の一貫性、変更サイクル、目的を考慮した設計となっているか、(3)情報管理原則(オーナーシップ、運用ルールなど)にのっとりきちんと運用され、例外処理や二次利用が頻発していないか、(4)統合マスターや各BOMを管理するシステムが乱立し冗長となっていないか、である。
「特に例外処理が頻発する場合には、その理由を突き止めるために業務を見直し、抜本的な対策を講じることが運用コストを削減するために欠かすことができない」(浅利氏)
経営者の視点からサービス化を進める
浅利氏が講演の最後に触れたテーマがSOA(サービス指向アーキテクチャ)だ。同氏によると、今後、システムの最適化を進める上でSOAは欠かせない存在になるという。SOAのアプローチを用いれば重複したシステムも統合でき、運用コストの削減が可能。サービスのインタフェースが定義されることから、システムの統合も容易も行うことができるからだ。
とはいえ、現状においてSOAはほとんどの企業にとってなじみの薄いものであり、自社システムに適用するに当たって戸惑う企業も少なくない。実際に、浅利氏の下にもサービスの“粒度”の見極め方や具体的なサービス間の接続方法について、多くの企業から問い合わせが寄せられているという。だが、実はこれらの問題は容易に解決することができるのだという。
「具体的な接続方法は、専門のベンダーからアドバイスを受けることができる。また、サービスの粒度は経営者や管理者が業務をどのようにとらえているかを参考に見極めることが可能だ」(浅利氏)
SOAの本来の目的は“サービス”という業務単位でシステムを抽象化してとらえ、システムを再定義することにある。そこで、経営者や管理者の視点からみた業務単位をサービスの尺度に流用しようというわけだ。
サービスの観点からシステムを再定義することで、冗長なシステムや無駄なシステムが可視化され、それらを破棄することで運用コストを削減することができる。また、サービスの再利用により、システムを低コストかつ短期に構築することも可能になる。
このようにSOAのメリットを解説した後、浅利氏は「システムを再定義することでシステムが可視化され、トラブルの原因も容易に突き止められる。今後は、どのようなトラブルが起こる可能性があるのかを予測するための情報活用力の強化が重要になるはず」と述べ、公演を締めくくった。
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