【第1回】モノ申す、経営トップに対して:ミドルが経営を変える(2/2 ページ)
ミドル層の衰退が叫ばれて久しい。「名ばかり管理職」など役職そのものを軽視するような言葉も登場している。果たして、ミドルの復権はあり得るのか? 新連載「ミドルが経営を変える」は、『部長の経営学』などの著書で知られる若手論客、吉村典久氏が企業経営におけるミドルのあり方に迫る。
管理者から変革者へ
筆者は経営学、とりわけ経営戦略論や経営組織論を専攻する研究者である。経営学の中で伝統的にミドルに求められてきたのは、よき「管理者(manager)」たる役割であった。トップの決定を受け、部下を通じてそれを効率良くこなしていく役割である。これは「モノ不足」「作れば売れる」の時代や、あるいは戦後日本企業が米国企業の後追いをしていた時期のように、市場にフロントランナーがいる場合には実に重要な役割だった。潤沢に提供すべきモノが明確であり、そうすることが社会から求められていたからである。このような環境では、提供するだけで確実に売り上げを確保でき、利益を上げるにはコスト削減のために社内で効率良く仕事をしていればよかった。
しかし、時代が「モノ不足」から「モノ余り」、「作れば売れる」から「作るだけでは売れない」時代へと変化する中でミドルに求められるのは「変革者(innovator)」の役割である。トップの決定を流すだけではなく、より主体的に従来の商品作りや仕事の進め方に疑問を投げ掛けて、社内や業界に渦巻く常識にとらわれずにそれらを打ち破る能力が求められる。打ち破る過程において、自らの部下を主体的に参画させなくてはならない。神戸大学の金井壽宏教授はこうした経営管理の手法を「裏マネジメント」、それを主導するミドルを「変革型ミドル」と呼び、従来の手法(表マネジメント)と対比させている*1。
書店の棚を占領する「はじめての課長の……」といった本の多くも、これまでとは異なり、良き管理者、そして願わくば変革者たるミドルとなることを読者に要求するものとなっているようである。
こうした役割を筆者は否定しない。企業組織の健全な発展のためには、日常的には良き管理者たるミドルのもとで定型的な仕事がきちんと処理され、時に変革を志すミドルが大いに活躍する。これが必須である。
過去の歴史が語る
しかし日本企業を取り巻く状況は、こうしたストーリーをたやすく描かせてはくれない。なぜ、描かせてくれないのか。描くためには、どうすればいいのか。
この連載では、株式市場の現状、それに対峙する経営者の姿、投資家の論理と企業経営の論理、ミドルが果たし得る役割(「モノ申す」役割)といったトピックに触れながら、こうした疑問を考えていく。
「ミドルがトップにモノ申し、ましてや罷免するなど」と思われるかもしれない。しかし、日本の企業社会の歴史を眺めてみると、トップ退任の引き金を従業員がひいた事例は少なくない。また興味深いことに、日本の過去の歴史をひもといてみても、ミドルがトップに「モノ申す」姿があちこちで見受けられる。トップたる藩主あるいは主人の命(めい)が絶対と思われた武家や商家でも、下からモノ申すことで藩主や主人の不行状が改められたり、時には退任を強いられたりすることもあったという。
こうしたさまざまな事例にも触れながら、あるべきミドルを模索していくつもりである。
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*1 金井壽宏(1991)『変革型ミドルの探求−戦略・変革指向の管理者行動』白桃書房
プロフィール
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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