【第4回】ミドルがトップに「モノ申す」べき:ミドルが経営を変える(2/2 ページ)
ビジネス現場の最前線で働くミドルは、企業経営のための知識やノウハウを幅広く身に付けている。もしもトップが誠実さを欠けば、引導を渡すのはそのミドルたちだ。
経営をもっと強く監視すべき
研究開発、生産、販売……。それぞれの現場を率いるミドルは、各社を実質的に運営していくために必要な技能、スキル、知識、知恵の固まりである。経営学の用語で言えば「情報的経営資源」の宝庫である。さらに、長期的な雇用慣行の中でミドルでも特に上位の地位まで昇進した人物であれば、それまでの仕事経験や社内のヒューマン・ネットワークから、現任の経営者にかかわる各種の情報を豊富に持っている。それは経営に関する専門的な知識やリーダーシップ、人間性など経営者として必要な能力である。
こうした情報を持つミドルは、トップに引導を渡す人材として適任である。さらに、日本企業のミドルには、その意思もまだまだあるように思われる。専修大学の宮本光晴教授らの手によるアンケート調査の結果によれば「従業員は経営をもっと強く監視すべき」と考えている従業員(部長・課長・係長・一般)は、約半数に上っている。部長クラスは48.3%、課長は51.5%となっている。この数値は、「株主は経営者をもっと強く監視すべき」を肯定する従業員の数を大幅に上回るものである*3。ミドルを含む従業員自身が、経営者のお目付役となるのは、自分たち自身であると考えていることの表われである。
ミドル自身が自由闊達に仕事にまい進できる。そうした職場をつくっていくためには、「その任にあらず」となった経営者には、ミドル自身の手でお引き取りを願う。
こうした仕組みが真剣に検討されるべきではなかろうか。もちろん、ミドルにはそれほどの力はなく、「遠吠えでしかない」との声があるかもしれない。しかしながら、大手証券会社、大手楽器会社、大手精密機器会社などいずれも日本を代表する会社において、ミドル主導でトップの実質的解任が行われている。表沙汰にはならなかったが、こうした事例をご存じの方もあるかと思う。
次回以降の連載では、ミドル主導の解任の事例を分析するとともに、それが、より実効性を持つための具体的な仕組みづくりについて言及していく。また、日本の商家(近江商人など)、武家にかかわる歴史を振り返ってみると、じつにユニークな統治の仕組みがあったことも分かっている。こうした歴史的な事例についても触れていくこととする。
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プロフィール
吉村典久(よしむら のりひさ)
和歌山大学経済学部教授
1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。
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