「うちのシステムを使え」「はい」は最悪の事態を招く:間違いだらけのIT経営(2/2 ページ)
外注先の企業が自社と同水準のITに対応していないがために、必要以上に業務効率が悪化したという経験をお持ちの読者は多いのではないか。ただし、そこで自社のシステムを無理やり導入させると大失敗する。
外注先は主張し、発注側も全面的にサポートせよ
これらの問題を見事に克服した好例がある。田中精工の成功例を、BCN Archive(BCN This Week 2008年9月1日 vol.1249掲載)より引用させていただく。
精密ダイカスト部品・金型の設計・製造業の田中精工は、坂田岳史ITコーディネーターのサポートで30%の外注業務を見える化するシステムに取り組んで成功した。
成功の要点は、ITの意識が高くない外注の関心を呼ぶために、準備段階からIT推進のための協議会を設置し、外注の意見や要望を取り入れるよう努め、勉強会も開き、利用方法もレクチャーしたことだ。システム稼働後、約半年で顕著な効果が出た。購買外注業務が約2分の1に圧縮、外注発注計画の精度が向上、仕掛品が約5%削減、不良在庫件数も激減した。経済産業省の「中小企業IT経営力大賞」の2007年度「IT経営実践企業」に選ばれた。
以上の情報からIT導入に成功するための外注先とのかかわり方が浮かび上がってくる。まず、外注先の企業自身がしっかりした考えを持たなければならない。顧客である発注元の、一方的な指示に従うべきではない。その結果がもたらすものは、上述の某機械メーカーの例が示している。
たとえ相手が顧客であっても、その言いなりになるということは今の時代にそぐわない。調査結果が示すように、効果に疑問がある、あるいは具体的な活用方法が分からないなら、納得できるまで発注側を問い詰めなければならない。人材がいないなら、発注側に相談しなければならない。アドバイスを堂々と求めたらよい。納得してからシステム導入に取り掛かるべきだ。その方が発注側にとってもメリットになる。
発注側は外注先を力で抑えようとすると、自社の外注比率分だけ機能がまひし、全体最適が遠くなる。外注先をわが身の一部と認識して、彼らの疑問に納得いくまで答え、徹底して支援しなければならない。こうした議論になるとすぐにコストの話が出てしまうが、発注側の全体最適と外注先の徹底した納得が先にありきで、外注先のサポートが有償か無償かはその後の話し合いだ。
プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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