【第1回】投資銀行破たんから学ぶ2009年の経営:石黒不二代のニュースの本質(2/2 ページ)
米金融崩壊に端を発した経済危機は欧州や新興国をも飲み込み、世界を不況のどん底へと陥れた。目下、経営者は厳しいかじ取りを迫られているわけだが、企業を正しい方向へ導くためには、今起きている出来事の「本質」を理解することが不可欠だ。新連載「石黒不二代のニュースの本質」では、ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEOの石黒不二代氏が米国へのMBA留学経験などを踏まえて鋭い視点で時事問題を斬る。
過ちを繰り返さないために
2009年の経営環境は、2008年前半までのそれと様変わりしています。2009年の経営方針は、この環境下で自ずと絞られてくるのですが、金融界の失敗から学ぶことは多そうです。いつも繰り返し犯す間違いであっても、成長市場で忘れがちなことです。
(1) レバレッジとリスクは正比例することを覚えておくことです。レバレッジが基本にある産業では、少なくとも数年は厳しい制限を受けるでしょう。投資銀行のように、環境に甘んじて長期債務を短期資金に頼ることはもってのほかです。そうでなくとも、2009年は、例年以上にキャッシュマネジメントが求められています。不況の長さによりますが、固定費の圧縮と手元の流動性を確保することは常に経営には求められることです。
(2) 人事制度や報酬制度を今だからこそ見直してみたほうがよさそうです。ウォール街の崩壊の原因の一つは、報酬制度が会社全体として一貫したものではなかったことです。通常の会社でいうところの営業、技術者、販売、管理など異なる職種で異なる目標があり、短期の業績連動型でした。全体のガバナンスを効かせるために、会社全体の収益向上につながる利益やCS(顧客満足)というものを個々の目標に落とし込むことが大切です。
(3) 2009年の経営の難しさは、全方位外交であることです。特に成長が期待されている業界では、利益とキャッシュマネジメントが当たり前のように求められると同時に、環境が改善される数年後に成長が約束されなければなりません。新しい製品やサービスはいつも不況期に開発されます。2009年は、投資の時期なのです。今後の成長に合わせた選択型の投資ができるか否かで、2010年以降の会社の姿は違ってきます。
今後数年にわたり、経営者は最も難しいかじ取りを期待されることになります。簡単なことではなさそうですが、これらは元来の日本企業の経営スタイルと近いものがあります。行き過ぎた資本主義の修正には、原点回帰が必要です。わたしは、日本企業の潜在成長力を信じています。
プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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