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【第15回】決して人を切らなかった出光興産の創業者ミドルが経営を変える(3/3 ページ)

「派遣切り」をはじめ企業のリストラの惨状を伝えるニュースがあふれている。戦後間もない日本でも多くの企業で人員整理が断行されたが、出光興産の創業者、出光佐三は従業員を「宝の山」と信じて疑わなかった。

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難にありて人を切らず

 佐三の事業手腕、経営哲学については到底ここで書き切れるものではない。企業経営の苦境下でのあり方だけでなく、企業経営を進めていく上での株式会社、上場制度のあり方など、佐三から学べることは多い*5

 佐三自身や出光興産の手によるものを含めて、佐三に関する著書は多い。例えば、日本経済新聞社の元取締役論説主幹である水木楊氏の「難にありて人を切らず――快商・出光佐三の生涯」(PHP研究所刊、2003年)もその1つだ。

 同書の中に次のような記述がある。1976年のことである。不況下にあった同年、多くの企業が新規採用を手控え、人員整理も断行されていた。こうした中、出光興産は例年よりも多い数の新規採用を行った。その際の佐三のスピーチである。


「今年は人はいらないけれど、素質のいい人をたくさんとった。諸君は5年、10年、20年先にその素質を発揮する。入社して君らには仕事がないから、いろいろなことを真剣に考え、自問自答するのです」


 わが社のトップにこうした気概はあるのか、気概がなければミドルはどうすべきか。考えるべき時ではなかろうか。本コラムを書き終えて夕刊を手に取ると、一面には「GDPマイナス12.7%」「輸出、落ち込み最大」と大きな見出しがあった*6。「戦後最大の経済危機」という経済財政担当相のコメントもある。

 現在が「戦後最大」の危機であるならば、戦後最大の知恵と、それを実行する勇気を持ったトップ、それを支えるミドルとの姿が見えてこないといけない。見えているのは、横並びの対応策ばかりではなかろうか。


*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***


プロフィール

吉村典久(よしむら のりひさ)

和歌山大学経済学部教授

1968年奈良県生まれ。学習院大学経済学部卒。神戸大学大学院経営学研究科修士課程修了。03年から04年Cass Business School, City University London客員研究員。博士(経営学)。現在、和歌山大学経済学部教授。専攻は経営戦略論、企業統治論。著作に『部長の経営学』(ちくま新書)、『日本の企業統治−神話と実態』(NTT出版)、『日本的経営の変革―持続する強みと問題点』(監訳、有斐閣)、「発言メカニズムをつうじた経営者への牽制」(同論文にて2000年、若手研究者向け経営倫理に関する懸賞論文・奨励賞受賞、日本経営倫理学会主催)など。


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