自覚のないリーダーの好例:問われるコーチング力(2/2 ページ)
もうろうとした状態で記者会見し辞任した中川昭一前財務・金融担当相。彼からリーダーとしての役割の多くを学ぶことができる。もちろん反面教師として、である。
名誉だけが目的になってしまっている
もう一つ。中川氏はリーダーとして訓練されていなかった、もしくは訓練を積むチャンスがなかったのではないだろうか。リーダーはあくまでも後天的なものだとわたしは考えている。リーダーとは組織のビジョンを示して、多くの人を巻き込み、ゴールに向かってまい進していく人のことだ。さまざまな訓練を積み、リーダーになっていくのである。
中川氏はこれまでに多くの閣僚経験を積み、それなりに評価されてきた。しかし、ある意味では、今のポジションに容易に就いたと言えるかもしれない。鈴木善幸内閣で科学技術庁長官を務めた父、中川一郎氏の後を継いで政治の道に入った。そのため、リーダーとしての振る舞いや言動についての認識が甘くなってしまったのではないだろうか。
組織のトップに就く人は、それなりの年月をかけ、さまざまな経験を積み、数え切れないほどの修羅場をくぐり抜けている。常に努力と鍛錬を繰り返し、そのポジションにたどり着く。失礼ながら、多くの2世、3世議員にはこの鍛錬が不足している。
中川氏だけではなく、現在の閣僚たちの姿を見ていて、その地位に就くことが目標になっている人が多いと感じる。首相も首相になることが長年の夢で、それだけが目的になってしまったように思える。
しかし、国のリーダーになる人は、リーダーになることが目的であってはならない。「この国を変えたいから、自分が首相になる」という考えが必要だ。それが目的となれば、人々の意見に耳を傾け、国民のために何ができるのかを考えて、早急に行動するはずである。それが目的になっていないため、「解散を決めるのはわたしです」と言い続け、現在のような状況を作っている。名誉を手に入れることだけが目的になっている人に、国民はついていかない。
組織のリーダーになる人は、リーダーという地位に酔うのではなく、リーダーになって組織をどうしたいのか、組織が良くなるために自分が何をすべきかを常に考えていなければならない。自分がその地位に就いたことに満足していたら、組織はつぶれてしまうだけである。
中川氏の辞任は、リーダーに必要なことについて、多くの示唆を与えている。ぜひ反面教師にしてほしい。
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プロフィール
細川馨(ほそかわ かおる)
ビジネスコーチ株式会社代表取締役
外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。
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