【第1話】 悩みとひらめき:内山悟志の「IT人材育成物語」(2/2 ページ)
中堅食品メーカーで情報システム部長の任に就く秦野は悩んでいた。システム部門が停滞気味だと感じていたからだ。ところが、新卒社員が配属されたある日、ふと妙案が浮かんだ。
ふとした思い付き
新入社員の配属が決まり、システム部にも新人研修を終えたフレッシュな新卒社員が1名だけやって来た6月のある日、秦野は帰宅する電車の中でふと妙案を思い付いた。「そうだ、川口くんに任せてみよう」。秦野は、良いアイデアが浮かばなかったり、考え事があったりするような時には、そのことに対してある程度考えた上で、しばらく放っておくことにしている。これは、1940年に原著の初版が出された「アイデアのつくり方」(ジェームス・W・ヤング、邦訳TBSブリタニカ)という本で学んだ方法だ。
この本によると、アイデアは、「材料収集」→「材料の消化」→「孵化」→「誕生」→「検証と発展」という過程で作られるとしている。この中で、「孵化」の部分が特徴的だ。つまり、あれこれと情報を加工して思考を巡らした後で、問題を放り出し、できるだけ問題を心の外に追い出してしまうのである。それが十分に孵化すると、「ふとした瞬間」にアイデアが自然に誕生するのだという。
しかし残念なことに、そうした「ふとした思い付き」は、記憶における揮発性が高く、せっかく思いついたアイデアも記録に残しておかなければ、後で思い出せないことが多い。そこで秦野は、電車の中や外出先でアイデアを思いついた時は、携帯メールから自分の会社のメールアドレスに、メモを送信するという手を使っている。手帳やノートに記録する方法もあるが、休日など常に持ち歩いているとは限らないし、実際のところメモしたことすら忘れてしまうこともしばしばで、結局アイデアがお蔵入りになることが多い。携帯電話なら、ほとんど持ち歩いているし、送信側にも受信側にも記録が残るので、忘れ去ることはまずない。
秦野は、さっそくポケットから携帯電話を取り出し、「川口くん 若手育成」とだけメールのタイトルに打ち込み、会社の自分のアドレス宛に送信した。
内山悟志の「IT人材育成物語」バックナンバー一覧はこちら
プロフィール
内山悟志(うちやま さとし)
株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト
大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「2009 逆風に立ち向かう企業」アイ・ティ・アール:「IT部門の再生工場を目指す」――ITR内山社長、2009年の展望
金融危機の影響を避けられない2009年、企業のIT投資は縮小傾向になるとITRの内山社長は話す。「新規投資ができない時こそ、人材育成に労力を注ぐべき」だという。 - 無計画なITインフラは渋滞する首都高速そのもの
日本企業のITインフラは無計画に広がってきた。IT調査会社ITR代表取締役の内山悟志氏はこの状態に危険信号を発する。あたかも無理につくった首都高速そのものの様相をていしているという。 - 首都高の二の舞い? 枯れた技術を手放せない日本のシステム部門
継ぎはぎ状に膨れ上がったレガシーシステムに頭を抱える日本企業。ビジネス環境の変化が著しい今日において、ITインフラの硬直化は大きな足かせだ。現状の構造を見直し、将来を見据えた「IT都市計画」が必要な時期に来ているという。 - 産学官連携によるIT人材育成で国際競争に打ち勝て
人材不足に悩む日本のIT産業が危機を脱する方法は何か。「将来のITトップ候補生」を目指し、経団連を中心に産学官連携による人材育成が進められている。その成果はいかに……? - 「産学官のリーダーらに変革を促したい」とIBMのコージェルGM
企業の競争優位の頼みは「人材」だが、IT分野における日本の人材不足はいっそう深刻だ。21世紀に求められる新たなITスキルについて産学官共同で考える人材育成フォーラムを世界各地で展開しているIBMのコージェルGMに話を聞いた。 - 「OBとして嬉しい」と北城氏――IBMと慶應義塾が産学連携イベント
第一線の研究者による大学での講演会「IBM Day」が行われた。日本では初回となった昨年の東大に続き、今年度は慶大で開催された。