【第3回】グローバル進出のための3ステップ:日本流「チーム型マネジメント」
企業が初めて自国から海外マーケットへ打って出て、最終的にグローバルで共通の経営を実践していくまでの段階を見ていく。
今回は経営のグローバル化とグローバルマネジメントの関係について述べる。
グローバルマネジメントの実践には、企業がグローバル化のどの過程にいるのかが大きく影響する。特に企業がグローバルマネジメントを達成すべき経営の進化の過程がある。どのステップに自社がいるのかにより、グローバルマネジメント実践の緊急度が異なる。海外市場へ進出し、事業がグローバルに展開されると経営をグローバルに行う必要に迫られる。特殊な現地事情に合わせ個別に運営されてきた海外現地法人は、グローバルで見ると統一性を欠くマネジメントを持つ。この段階では、現地社員の高い離職率や海外赴任者のコミュニケーション能力不足、本社と異なる現地文化や組織文化などが散見される。共通した意思決定やコミュニケーションスタイルを持つマネジメントが求められる。
経営グローバル化のステップ
そこで自社事業を自国市場から世界規模で展開することで、実践すべき経営グローバル化のステップを俯瞰する。企業がゼロから自力でグローバル展開を行う時には、現地市場への参入が出発点となる。その後、海外の現地市場や文化に合わせて経営手法を適応させる経営ローカル化が発生し、他国も交え経営を地域により共通化する経営地域化が起こり、最終的には世界規模で共通の経営を行う経営グローバル化へと進む。ステップごとに特徴を見てみる。
ステップ0は、進出国への参入となる。これは輸出レベルではなく現地に販売拠点や生産拠点を設けることを指す。日本企業の場合は1985年のプラザ合意をきっかけに多くの企業がアジアを中心に製造拠点を設けた。
ステップ1とは、現地国市場の深耕である。現地国市場や文化、商習慣を理解し、現地人の採用と活用を行い、さらなる市場獲得を狙う。アジアに進出した日本企業は、製造拠点を設置し、そこから現地市場の攻略を始めた。本社文化とは異なる文化や価値観があり、現地人の幹部と出向者の属性を反映したマネジメントが必要となる。
ステップ2では、現地国市場から隣国市場群への参入、およびアジアや北米、欧州など、地域としてマネジメントを実施する。現地化を経て周辺国市場や他国への進出を行うことで地域や多国市場の新興を狙う。現地人材も経営幹部に配置し、本社への逆出向もあり得る。リーダー像としては、現地社員の属性になりスタイルの違いが大きく目立つ時期でもある。
ステップ3は、世界規模のグローバル経営を行う段階である。グローバルマネジメントを共通化し、グローバルナレッジの獲得と活用を行う。グローバル人材マネジメントの共通の仕組みを持ち、世界での経験をベースとしたグローバルリーダー像があり、組織や理念、マネジメントシステムも共有化される。
いずれのステップにおいてもグローバルマネジメントが必要だが、特にクローズアップされるのはステップ2、3である。今まで個別に運営されていた海外現地法人が、グローバル人材の育成や活用、グローバルナレッジの蓄積と活用、グローバル製品の展開などの施策により、マネジメントシステムの共通化が必要になるからだ。
ただし、必ずしもすべての企業がこのステップを踏むわけではない。近年ではM&A(企業の合併、買収)を仕掛けることで一気呵成(かせい)にグローバル化を実現することもある。例えば日本板硝子による英Pilkington社買収が象徴的である。M&Aによる経営グローバル化には、別会社としてマネジメントするか、同じ企業名に統合して運営するかによって経営グローバル化の必要性が異なる。
著者プロフィール
岩下仁(いわした ひとし)
バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。
現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバルインサイト”を執筆中。
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