見えない日本の将来:藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)
日本の産業が抱える過剰設備を調整し、余剰人員の適切な配置転換が終わらない限り、日本経済の本格的な回復はない。
あるべき日本の姿を議論せよ
最近、フィンランドに取材に行った。フィンランドの人口は約530万人。日本と同じように高齢化が進み、放っておけば人口は減る。移民を導入することによって人口を増やしているが、それはさておき、これからのフィンランドを担う産業づくりを考えている。「もはやノキアの時代ではない」という言葉をあちこちで聞いた。もちろん、ノキアやITの技術を捨てるという意味ではない。ノキアだけではフィンランドの明日を担えないという意味である。そのためにヘルシンキ市などでは、産官学連携してさまざまな開発分野が検討されている。
フィンランドでも1990年代半ばに金融バブルがはじけて大きく経済が後退したことがある。そこから構造改善の動きが急速に強まったのだという。そのころのフィンランドは、ロシアとの貿易の比率が高かった。ロシアがソ連崩壊後の混乱から経済が停滞したために、フィンランドの経済もその影響から逃れられなかったのである。
日本が今までの産業構造や政策の限界を意識し、それらを部分的に破壊しつつ(シュンペーターが言うところの創造的破壊である)新しい形をつくりだそうとするのは一体いつのことになるのだろうか。本来なら、今年の総選挙の争点は「あるべき日本の姿」である。
なぜなら800兆円もの借金を抱えた国がやれる政策というのは限られているはずだからだ。できるだけ次へつながる経済効果のある政策を打たなければならない。間違っても「アニメの殿堂」ではないはずなのだ。役所が主導してハコモノを作った結果が今の日本であると言っても過言ではないからである。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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