【第7回】Googleに習う仕事の進め方:日本流「チーム型マネジメント」
仕事のルールを明文化したGoogleの「10の黄金律」は、日本企業が見習うべきチーム型マネジメントの手法が明快に規定されている。
前回はマネジメントシステムの要素と位置付けを確認した。今回は実践事例としてGoogleを取り上げ、チーム型マネジメントの内容や方法を見ていく。
Googleの「10の黄金律」
実は日本企業よりも一部の欧米企業において、チーム型マネジメントが実践されている事例がある。かつてのHPが標榜した「HP way」、現在ではGoogleが「10の黄金律」としてGoogleの仕事のやり方をルールとして示し成果を挙げている。
この黄金律では、Google社員が行うチーム型マネジメントシステムが明快に規定されている。注目すべきは合意主体の意思決定とデータ主体のコミュニケーションである。例えば、採用は委員会(チーム)で行うこと、チームごとにオフィスを配置すること、円滑な調整作業を行うこと、マネジャーとは意思決定者ではなく、ファシリテーターであることなどが挙げられる。これらの項目は、前回説明したチーム型マネジメントをより具体的に規定している。
合意形成による意思決定の推奨とともに、社員尊重とデータ主体の論理的コミュニケーションが規範されている。ここまで明快にチーム型マネジメントシステムを規範した欧米企業は少ない。ただしGoogleはコミュニケーションにおいて、必ずしも調和志向ではなく建設的な対話や創造性を推奨しており、コミュニケーションは組織外部の差別化志向を持つように見える。例えば黄金律では、創造性を奨励したり、対話を重視した効果的コミュニケーションを推奨したりしている。
チーム型マネジメントの明文化
日本企業がチーム型マネジメントを実践するためには、10の黄金律のように、自身の部門のマネジメントシステムを明文化し、共有化すること勧める。組織とは家族であり仲間であること、情報を関係者で共有し合意形成により意思決定すること、スタッフから改善提案や意見を積極的に上げることなどを組織メンバーと討議するべきだ。ある程度のコミットメントがメンバーから得られれば、マネジメントルールや独自のやり方(Way)などと大きく標榜してみてはいかがだろうか。
また組織文化や個人のリーダーシップにも反映させていくことで強いメッセージを共有できる。メンバーとの対話が増え、チーム型マネジメントへの理解が深まり、組織全体の方向性を出すことができる。
ただし時としてトップダウン型の意思決定が必要なときもある。例えば緊急事態の発生や自然災害、突発的事故などの際には、チーム型マネジメントの合意形成などしてはならない。この場合はトップが責任を持って意思決定し社員を命令し統制しなければならない。市場や顧客からの信じられないようなクレームや品質問題などの騒動でも同様だ。
なお、チーム型マネジメントの報酬制度は、金銭報酬よりも個人の満足度や成長に重きを置くのが良い。欧米企業の個人型マネジメントによくある、差別化された報酬制度は社員同士の熾烈な競争を促進するが、チームワークの価値観とあまり相性が良くない。米国プロ野球のある調査では、チーム内の選手間の給与格差と各チームの業績とは反比例する傾向にあるという。つまり選手間の給与が大きくばらついていると、チームの業績も傾いていくそうだ。比較的個人プレーが強い野球でも、チームワークと個人中心の報酬制度は問題があるようだ。
多くの日本企業において、チーム型マネジメントの目的や選択理由は行動へと具現化されているであろうか。混沌とした異文化環境において、チーム型マネジメントシステムの確立は、グローバルマネジメントの主要課題である。自身の仕事の進め方を共有することで、チームメンバー間の信頼感が増し、リーダーシップの確立につながる。次回は個人としてのグローバル人材やリーダーシップの関係について述べる。
日本流「チーム型マネジメント」 バックナンバー一覧
著者プロフィール
岩下仁(いわした ひとし)
バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。
現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバルインサイト”を執筆中。
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