「新しい発明は努力ではなく技術者の楽しみから生まれるのだ」――タイトー・三部CTO:エグゼクティブ会員の横顔(3/3 ページ)
「根っからの技術オタク」だと自身を評するタイトーの三部氏は、ゲーム産業の発展に寄与したほか、世界初の通信カラオケを生み出した。日本では冷遇されつつあるエンジニアたちにエールを送る。
技術の種を見過ごすな
――面白い技術や商品を生み出すためにはいろいろなものに興味を持たなければなりません。三部さんが最近注目しているものはありますか。
三部 先日、大阪大学の遠藤勝義教授が研究している「超平面」についての話を伺い大いに刺激を受けました。一般的に平面と言っても厳密にはデコボコなので、それを原子レベルまで平面にする技術を遠藤教授は開発しており、多くの興味ある実験と応用研究が行われていました。
アナログの固まりのようなAMラジオ放送局で聞いた話も興味深いものでした。実は現在のAMラジオ放送局で電波そのものを作り出す部分の多くにデジタル技術が集積しており、それらを活用して効率的にアナログ電波を作り出していました。並列に接続されたD級アンプとそれらを足し込む巨大なコイルなどからなる高周波電子回路ですが、一昔前であれば半分以上が熱になって逃げていたものがデジタル化されて大いに改善されていました。
これらのことから感じるのは、いろいろなところに新技術の種はあるけれど、大半は気付かずに見逃してしまっているということです。素晴らしい技術やアイデアなのに、目の前を通り過ぎていくのはもったいないことです。さまざまな場所で多くのエンジニアと出会い、見過ごされていた種を見つけ生かしていければいいと思っています。
――そうした種をキャッチアップできるのも長年の経験があるからでしょうか。
三部 経験と興味でしょうね。両方なければやはり目の前を通り過ぎてしまいます。興味といえば、技術雑誌などに登場するエンジニアの苦労話は好きですね。「この人も同じ部分で苦労したのだなあ」と共感できます。小説には行間を読むという言葉がありますが、技術も見るだけでその場の臨場感などが伝わってきます。例えば、博物館に訪れ昔の機械を見ると、つくった人たちの感性が伝わってきます。粗末なものでもすごい工夫がされているのが分かります。技術屋で本当に良かったと思う瞬間です。
結局、どんなに小さなものでも巨大なものでも、人間がつくらなければ生まれることはなかったわけです。最初に誰かがアイデアを出し試行錯誤してつくったものが、発展して今の世の中を形成しているのです。あらゆるものは努力の積み重ねでできています。ところが面白いことに、発明した人たちは決して努力が苦しかったとは思っておらず、大いに楽しんでつくったはずです。他人からは苦労に見えますが、本人たちにそうした感覚は少ないと思います。
――日本では理工系離れ、エンジニア不足が深刻です。
三部 欧米と比べて日本のエンジニアや研究者は冷遇されていると思います。そのような状況では皆エンジニアになりたいとは思いません。ヨーロッパでも1970年代まではエンジニアの地位は高くありませんでしたが、80〜90年代になると、新しい世の中を作っていくためにはエンジニアが重要だという風土が生まれステータスが上がったと聞いています。韓国では、ゲーム業界やIT業界に勤めていると徴兵が免除されるそうです。国を先導する産業だととらえられているからです。日本だけが「3K」のような業種と見なされて、エンジニアになる若者が少なくなっているのはとても悲しいです。
日本企業の考え方にも課題があります。マネジメントスキルだけが評価されやすく、スペシャリストが隅に追いやられているような気がします。わたしのような立場の人間がスペシャリストにも光を当てる機運を社内外で作っていくことが必要だと思っています。
最近読んだお薦めの本:
マーティ・リンスキー、ロナルド・A・ハイフェッツ著『最前線のリーダーシップ』
ストレス解消法:
出勤前にスポーツジムに通っています。プールで1000メートル泳ぎ上半身を鍛えたら、翌日は下半身のトレーニングのために自転車こぎを30分しています。これを繰り返しています。
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