【第2回】顧客から十人十色の「個客」の時代へ:21世紀市場を勝ち抜くIT経営(3/3 ページ)
20世紀の大量生産、大量消費の時代は幕を閉じ、21世紀は市場の細分化により消費者一人一人に焦点を当てたマーケティングが求められるようになった。今こそ独自性や付加価値を強みにした経営戦略を打ち出すべきだ。
経営の自立化、オープン化をITで実現
しかし、こうした付加価値戦略を成功させるのはそう簡単なことではない。細分化した市場の攻略は営業や販促などの専門会社に安易に頼るわけにはいかない。自力で市場を開拓する力を持つくらいの強い意志が必要となる。また、効率よく製品サービスを提供するために業務プロセス改革も不可欠となる。これらを実現に導くビジネスモデル構築は、インターネットなど最新のITの戦略活用が大前提となる。
だが、ほとんどの中小企業には社内にITの専門家がいない。そこで外部の力を使うことが不可欠になるが、任せっぱなしにすると、意思疎通の問題や利害関係などから失敗のリスクが大きくなる。これを極力回避するには、経営トップは、自社が何をやりたいのか、という経営戦略を明確にして妥協せずに貫くことである。ITベンダーの提案には、安易に妥協してはいけない。
また、日本の中小企業ではほとんど実施されていないが、システム稼働後に当初に設定した目標の効果が出ているかを検証することが重要である。これを行って問題点を解決し、システムを継続的に進化させていけば確実に競争力を向上させることが出来る。
最新ITをベースにしたビジネスモデル構築によって達成すべき目標として「経営の自立化」「経営のオープン化」があげられる。経営の自立化は中小企業にとっては最重要事項である。自立化度を上げるには、(1)新規顧客・リピート顧客を獲得する力を持つこと、(2)ビジネスの提案力を向上させることなどが挙げられる。
また、経営のオープン化度を上げるには、(1)ビジネスの活動状況がすばやくとらえられる仕組みを構築して社内、パートナー、顧客などと迅速かつ詳細な情報共有を行うことである。こうしたことが達成されると、(2)従業員満足度(ES)、顧客満足度(CS)、ビジネスパートナー満足度(PS)、そして社会満足度(SS)向上につながる。結果として企業の付加価値が高まり高収益経営が実現されることになっていく。
例えば、最優秀企業に認定した産業用送風機や集塵機を製造・販売する昭和電機(大阪府大東市)は売上高65億円だが経常利益は14億円で利益率は20%を超えている。同社は、営業から生産、納品、保守に至るすべてのデータをITを駆使して詳細に把握、共有を徹底し、顧客に提出する見積りの精度を飛躍的に向上させることにつなげて高収益経営を創り出している。
著者プロフィール
上村孝樹(かみむら たかき)
ジャーナリスト/経営・ビジネスアドバイザー
1949年新潟県生まれ。青山学院大学経済学部卒業。日本ビジネスコンサルタント(現日立情報システムズ)を経て、1980年、日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社。81年日経コンピュータ誌創刊とともに、同誌編集部記者、同副編集長を経て、93年3月、日経情報ストラテジー編集長。95年5月から同誌発行人を兼任。98年3月にコンピュータ局主席編集委員。2003年1月、日経アドバンテージ編集長、同年3月発行人を兼任。2005年4月、日経BP社を退職し、フリーとしてジャーナリスト/コンサルティング活動開始。2004年から金沢工業大学大学院客員教授に就任。2007年から事業創造大学院大学のIT経営講座・主任教授に就任、同年年5月から「IT経営講座」を開講している。
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