人材採用にはびこる勘違い:生き残れない経営(2/2 ページ)
目下の不況において、企業はできる限り即戦力に近い人材を求め、学生は企業が必要とする人材に自らを合わせようとする。実はその土台となっている考え方に大きなギャップがあるのだ。
企業と学生の考え方は大きく異なる
しかし、基準が明確になると、一方で問題がクローズアップされる面がある。その後行われたいくつかの調査(経済産業省「社会人基礎力に関する緊急調査」2006年4月、みんなの就職「社会人基礎力に関するアンケート」2006年4月)などから、気付いた主な問題点を抽出し検討を試みたい。
まず、企業が求める社会人基礎力と、学生が自信を持っていると自覚する社会人基礎力には、下記数字のように大きなギャップがある。
前に踏み出す力 | 考え抜く力 | チームで働く力 | |
---|---|---|---|
企業が求める割合 | 59.0% | 25.5% | 27.3% |
学生が自信のある割合 | 35.0% | 44.5% | 56.6% |
さらに分解した12要素でみると、ギャップが具体化してくる。特にギャップの大きな要素を取り上げると、下記のようになる(カッコは12要素の中の順位)。
企業が求める人材像との関係の深さ | 学生が自信のあるものの割合 | |
---|---|---|
主体性 | 84.3%(1) | 28.9%(10) |
実行力 | 79.5%(2) | 35.3%(7) |
柔軟性 | 68.6%(4) | 50.6%(1) |
状況把握力 | 58.4%(6) | 45.4%(3) |
傾聴力 | 54.1%(7) | 47.5%(2) |
上記の調査結果から読み取れることは、企業が最重視する「前に踏み出す力」について、学生は最も自信がないようだ。特に、「主体性」と「実行力」についての企業と学生の間のギャップが大き過ぎる。一方、企業の重視度が中位の「柔軟性」「状況把握力」「傾聴力」については、学生が最も自信を持っている項目である。いずれも受身的で、状況把握力などは空気を読む力と勘ぐりたくなる。
問題を起こさないように行動しました
筆者が、以前入社試験の面接を担当したときだ。多くの学生の学生生活に大きな疑問と不満を持った。
例えば、一流と言われるある大学の学生は、「ダンス部に所属していた」と言う。「ダンス部で得たことは?」と言う筆者の問いに、学生は「楽しかったです」と答えた。筆者が「部活動で楽しかったり、時には壁に突き当たったりしたと思うが、そこから何かを得たのでは?」と聞くと、学生は「部の方針に従って、問題を起こさないように行動しました」と述べた。
学生は、柔軟性、状況把握力、傾聴力などという受け身で、周囲の空気を読むような力を養おうとせず、主体性、実行力などが企業から要求されているということをはっきり認識して、その養成に意を用いるべきだ。企業も、柔軟性などという付和雷同とも受身的とも取られる要素を採用選定基準の上位に位置させずに、主体性、実行力などを重視する姿勢を明確に打ち出すべきだ。そして採用後の教育も、企業の必要とする能力や、学生が弱点と意識している能力に力点を置くべきだ。企業も学生も勘違いや誤解を生まないために、必要とする能力、される能力についてメリハリをつけなければならない。
次回は、別のアンケート調査を参考に、今回と異なる視点から、企業と学生の人材に対する考えの勘違いを指摘する。学生に要求される能力の養成の仕方や、企業内における教育の仕方について提言する。企業も学生も、考えを改めなければならないと、さらに気付くはずである。
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著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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