【第1回】ヒト中心の新・クラウド戦略とは:ヒトの働き方を変える新・クラウド戦略(2/2 ページ)
クラウドは「ITの話題」ではなく「ヒトの話題」である。従業員の働き方、人と人とのコミュニケーションがクラウドによりどう変わっていくのか。本連載では先進事例に基づき「ヒト」の観点からクラウドのインパクトを探る。
業務のクラウド化
今度はクラウドによる成功事例を紹介しよう。Xpenserが提供する経費精算システム「Xpenser」はWebサイト経由で出張費や交通費などの入力ができるシンプルなクラウドサービスだが、好評を得て売り上げが急増している。なぜか。
その秘密は、メールと電話による簡易秘書サービスにある。毎月、交通費や消耗品費の領収書を整理し経費精算フォームに入力するのは誰もが面倒だと感じている作業だ。例えば、電話で「取引先B社とランチ 62ドル」と伝えたり、メールに領収書の写真を添付して本文に「ホテルまでのタクシー代」と書いて送付したりすると、Xpenserのスタッフが内容を確認してフォームに入力代行してくれる。この簡易秘書サービスが弁護士や会計士、独立コンサルタントなどのプロフェッショナルから高い支持を得ている。
Xpenserのサービスは、単にシステムがクラウド化されているだけでなく、ユーザーが行う業務の一部までをクラウド化している点が大きなポイントである。つまり、クラウドによってヒトの働き方も変わっていくのである。Xpenserが示唆するのは、システムのクラウド化によって、本当にユーザー自身がやらなければならない業務だけが残るということである。
クラウドに関する5つのレイヤ
この2つの事例から分かることは、ユーザー側にとってクラウドは決してITの話ではなく働き方にかかわる話であるということだ。ユーザー企業から見たクラウドは、次の図のように大きく5つの階層(レイヤ)に分けて議論できる。
レイヤ1からレイヤ3までは、これまでのクラウド議論で行われてきた提供事業者の分類である。土台となる「レイヤ1:インフラ」は、ハードウェアやネットワークの運用をクラウド化するIaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれるもので「Amazon EC2」がその代表例である。その上にOS、DB、サーバなどの運用を行う「レイヤ2:ミドルウェア」があり、このレイヤを含めたクラウドはPaaS(Platform as a Service)と呼ばれ、「Windows Azure」や「Google App Engine」などがそれに当たる。このミドルウェアの上で動く「レイヤ3:アプリケーション」までを含めたクラウドには米Salesforceなどが提供するSaaS(Software as a Service)がある。
ユーザー企業にとって重要なのは、「レイヤ4:トータルシステム」の部分、すなわちクラウドをトータルシステムとして構築、提供する際のサポート、管理、PDCA、ガバナンスをシステム部門としてどう提供していくのかという点であり、最終的には「レイヤ5:ソリューション」の領域でユーザーの業務そのものがクラウドによりどう変わっていくのかという「クラウドを利用するヒト」の議論である。
次回は、クラウド導入によってワークスタイルを変革したグローバル企業であるP&Gを例に、新たな働き方を模索していきたい。
著者プロフィール
吉田健一(よしだ けんいち)
リアルコム株式会社 取締役 COO
一橋大学商学部卒。戦略系コンサルティングファーム、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトンにおいて、国内外の大手企業に対する戦略立案・実行支援のコンサルティングに従事。リアルコムでは、マーケティング、営業、ビジネスコンサルティング部門を統括し、顧客企業における情報アーキテクチャーのデザイン、情報共有、ナレッジマネジメント、企業変革プロジェクトを指揮する。これまでに培った方法論と事例をまとめた書籍『この情報共有が利益をもたらす〜経営課題に適した4つの実践アプローチ〜』(ダイヤモンド社)を監修。
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