【第2回】日本の一歩先を行く米国企業:ダイバーシティの“今”を追う(2/2 ページ)
日本では導入半ばであるダイバーシティですが、米国ではすでに多くの企業で実践が進んでいます。経営戦略の上で重視する企業も少なくありません。
マイノリティ活用の施策
マイノリティの活用については、残念ながら女性の登用ほど全体として進んでいないのが現状です。しかしFortune500の上位企業では積極的に取り組まれているようです。なぜなら、企業のグローバルレベルでの市場戦略を考える上で、さらなる多様性が次世代の鍵になると考えられているからです。
2000年代のインターネットの出現が、時間や空間、規模の制約を超えて、個人にパワーを与えました。ITによって国家という垣根が低くなり、市場がグローバルになり、情報量が増すことによって、逆に民族、宗教、障がい、性別や性的志向などといった違いは以前よりも顕在化し、種類も多様化してきています。今までは国単位で国内に存在する相違に対処していればよかったのですが、グローバルに存在する相違との接点が個人レベルで増えてきたのです。その結果、競争に勝ち抜くためには、地域、国、個人消費者の文化や嗜好を熟知したきめ細やかな商品開発やブランディングが求められ、それらを生み出す多様性のあるマイノリティ人材の採用や活用が重要であると考えられるようになったからです。
カリフォルニア州では近い将来、白人がマイノリティになるのは周知の事実です。このような経営環境において、女性活用だけではなく、本当の意味での組織内の多様性を融合し、組織の力にしていく施策を実行した企業だけが勝ち残ることができるのです。実際に、Citibank、Johnson & Johnson、Pepsico、Kelloggなどの大企業では、マイノリティを支援するNPO「MLT(Minority Leadership for Tomorrow)」と提携し、MLTのカリキュラムへのサポートと引き換えに、優秀な人材を受け入れています。
例えば、Pepsicoでは、以下のような施策を実施した結果、取締役に占めるマイノリティ社員の割合が30%にも達しました(全従業員に占めるマイノリティの比率も30%)。
中期計画でダイバーシティ戦略を立案、実施している。
教育者、政治家、専門家(弁護士、医者等)、顧客で構成される社外ダイバーシティ委員会、社内のエスニック委員会、DIGC「(Diversity & inclusion Governance Council)」を設置し、経営に対するアドバイザリーと各種施策の実行支援を実施している。
全社員を対象に研修(Diversity & Inclusion Training)を実施し、職場の中でどのようにしてインクルージョンを実現するかについて啓蒙を行っている。
ダイバーシティ・マネジメントについての経営管理指標にひもづいた経営幹部のボーナス制度を採用している。
マイノリティ、女性社員に対する特別なメンタリング制度を運用している。
注目を集めるGoogleとApple
米国企業は、サブプライム危機以降、国内では厳しい経営環境にさらされ、海外の新興市場においても現地資本との競争が激化しています。そのような市場環境においても企業価値を高めている企業にGoogleとAppleの2社があります。両社に共通しているのが、国籍、人種、性別を問わない顧客層に対して直接自らの商品やサービスをマーケティングしている点です。
もちろん、その戦略の多くがインターネットなどの要素技術を通じて実現されたものですが、一方で、この2社が米国企業の中で最も進んだダイバーシティ・マネジメントを実践している企業であることも見逃せません。このような例からも米国企業の経営者にとってダイバーシティ・マネジメントは今後ますます戦略上の重要性をもってくるのではないかと予想されます。
次回は欧州企業におけるダイバーシティ・マネジメントの取り組みについて紹介します。
著者プロフィール
渡邊玲子(わたなべ れいこ)
プライスウォーターハウス クーパース株式会社
HRM シニアマネージャー。2001年5月ユニファイネットワーク(PwC P&Cの前身)株式会社入社以来、内外資系企業を中心とした、幅広い業種において組織・人事戦略に関わるコンサルティングに10年以上携わる。最近では、M&Aにかかわるプレ・ポストディールサポートを一貫して行ない、企業再生ファンドによる企業買収に伴うデューデリジェンス・雇用調整・Day1を見据えた具体的な統合計画を策定、PMIフェーズでは、企業戦略にひもづいた人材マネジメント戦略を立案し、採用から代謝までの人材フローマネジメント設計および人事基幹三制度の制度設計をプロジェクトマネージャーとして推進する。
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