オフショアBPOから見える、クロスボーダーなビジネス:女流コンサルタント、アジアを歩く(4/4 ページ)
本稿では、改めて、日本企業のアジア新興国進出パターンを整理した上で、オフショアBPOが持つ将来的な可能性について検討する。
もう一つの可能性
さて、お気づきの方もいるかもしれないが、オフショアBPOのパターンの整理において、アジア新興国進出パターン整理の(イ)-(a)として記した“日本あるいはその他の地域で生産した商品をアジア新興国で販売する”に該当するものを検討していない。すなわち、日本がアジア新興国に向けてサービス提供する、というパターンについては、検討を行っていない。これは、3つの理由から、割愛した。
1つは、オフショアBPOのパターン整理において、日本をサービス拠点とするパターンはふさわしくないためである。2つ目は、BPOの目的をコスト削減とする場合において、日本からアジア新興国にサービス提供することは事実上考えられないためである。そして、3つ目は、これを取り上げると、アジア新興国だけでなく、世界に対して日本からサービスを提供するケースに話が及び、議論が拡散ためである。
しかし、最後に簡単にこのケースについても触れておく。このケースは、これからのBPOを考える上で重要と思われるためである。先ほども述べたとおり、これは対アジア新興国と考えるのではなく、世界の国々に対象を広げて考えるべきであるため、図の中の「アジア新興国」を「世界の国々」と読み替えていただきたい。
これまでのアウトソーシングやBPOというのは、コスト削減を主目的になされてきた。そのため、アジア新興国に拠点を構えるという事例が多数あるわけである。しかし、今後のアウトソーシングやBPOも同じだろうか。
企業は、競争力を向上し、競争優位を築くために、様々な取り組みを行っている。アウトソーシングやBPOもそれらの取り組みの一環であると考えた場合には、その主目的がコスト削減とはならない。言い方を換えると、コスト削減を主目的としたアウトソーシングやBPOでは、競争力を向上させ、競争優位を築くことにもはや寄与しないのである。
では、競争力を向上させ、競争優位を築くことを念頭に置いたアウトソーシングやBPOとは何か。
それは、「あらゆる業務を、その業務を最高水準で実施している企業に、世界の中の最適な場所で担ってもらう」というアウトソーシングであり、BPOである。その業務が定型か非定型か、コア業務かノンコア業務かという判断は不要である。あらゆる業務を最適かつ最高の水準で委託し、それを統合することができれば、競争力は自ずと上がることになる。
アウトソーシングやBPOをこのように考えるのは、決して突飛な発想ではない。米国の半導体業界や医療関係業界から始まったこのXBPO(クロスボーダー・ビジネス・プロセス・アウトソーシング)という流れは世界に広がりつつある。この考えに基づきアウトソーシングやBPOを考えると、日本企業が世界中の企業の一部の業務を受託し、サービスを提供するようになることも十分に考えられる。
それは、BPOサービス企業だけでなく、日本のあらゆる企業がサービスを提供する新しい形である。日本企業のビジネスには、このような可能性もまだ眠っているのである。
著者プロフィール
辻 佳子(つじ よしこ)
デロイト トーマツ コンサルティング所属コンサルタント。システムエンジニアを経た後、アクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズにて、官公庁や製造業等の企業統合PMIに伴うBPR、大規模なアウトソーシング化/中国オフショア化のプロジェクトに従事。大連・上海・日本を行き来し、チームの運営・進行管理者としてブリッジ的な役割を担う。現在、デロイト トーマツ コンサルティング所属。中国+アジア途上国におけるビジネスのほか、IT、BPR、BPO/ITOの分野で活躍している。
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