エネルギー政策の行方
その意味では、日本のエネルギーにおいて原発依存を高めていくという方向性は変わらないと思う。もちろん再生可能エネルギーのうち、太陽光やバイオマス、風力といったエネルギーはありうるとはいえ、主力電源としては頼りない。バイオマスは燃料となる木くずやワラ、あるいは家畜の糞尿を集めるのにコストがかかりすぎるし、太陽光や風力は安定して発電するというわけにいかないからである。
ドイツは今回の福島の事故を受けて、環境政党である緑の党が勢いを復活させた。これを受けてメルケル首相は、いったんは原発の耐用年数を引き上げようとしていたが、再び脱原発に舵を切った。太陽光や風力を中心に再生エネルギーの比率は先進国では約12%と最も高い(日本は約3%)が、原子力依存度も日本とあまり変わらないだけに、この決定は注目される。もっとも再生可能エネルギーを普及させるために、いわば市場原理を無視した補助金政策には批判もあるし、電力のコストも高い。またフランスから電力を買っていることが、「他国の原子力に依存している」という批判も招いている。
日本の場合は電力需要が急増する時代は終わっているが、新興国(とりわけ中国やインド)は電力不足に悩んでいる。こうした国では原発の増強は必須だ。なにしろ原油は生産のピークを過ぎたか、あるいは過ぎつつあるとされ、今後のエネルギー需要を賄うには足りなくなる可能性が大きい。アメリカのオバマ大統領が原子力発電を増強するという方針を変えないのも、世界的なエネルギー需給状況をにらんで、アメリカのエネルギー安全保障を考えているからだ。
福島第一原発の事故を受けて、日本が脱原発の選択をできるかということになると、現実的には難しいと思う。それに今回の事故は世界最悪のレベルとは言うが、建設後40年もたった原子炉でも地震には耐えた。問題は非常用の発電機や燃料タンクの配置にあった。電源を失わなければ無事に冷温停止状態に入ったはずだ。
いま停止している原発やこれから建設しようとしている原発計画が動き出すまでには高いハードルがある。しかし私たちが原発以外の選択肢を探すことにも高いハードルがあると思う。原発を捨ててライフスタイルを変えるのか、それとも原発を容認するのか。岐路は目の前にある。
著者プロフィール
藤田正美(ふじた まさよし)
『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。
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