日本が世界をリードするための施策――「グリーン革命」:経営のヒントになる1冊
人類が永続的に豊かな生活を享受するためには、地球の環境対策は待ったなしの状況である。オバマ米大統領の「グリーン・ニューディール政策」をはじめ、世界各国の首脳が躍起になって取り組んでいる。エコ技術で世界の半歩先を行く日本はこの追い風をものにしたいところだ。
これから先のビジネスと生活を真剣に考える人にとって指南役となるのが本書である。著者のトーマス・フリードマンは、『レクサスとオリーブの木』や『フラット化する世界』など数々の世界的ベストセラーで名高い米国のジャーナリストだ。これまでの彼の著作と同じく、世界中の事例やインタビューなどによって膨大な証拠を積み重ね、読者を納得させるという手法を採っている。
本書は「温暖化、フラット化、人口過密化」という3つの大問題を回避しつつ、この先も人類が豊かな生活を送り、さらにそこから企業と国家、個人が「うまみ」を得るにはどうすべきかについて言及している。極めてビジネスライクに、グリーン革命はもうかり、これまでになかった産業と雇用を生み出し、国の安全保障にもかかわると著者は言う。グリーン革命とは、現在の化石燃料を使った社会システムを、クリーン燃料(太陽力、風力、水力、潮力、地熱)を利用した社会へ変革することである。
地球温暖化が現実のものにせよエセ科学にせよ、グリーン革命を遂行しないと豊かな生活が続かなくなる理由、つまり現在の化石燃料システムが持続しない理由を5つ挙げている。例えば、中国とインドがもしも豊かになったらガソリン価格は昨年よりも高くなる。資源争奪戦がこれまで以上に激しくなり、2030年には米国人と同じような生活をする集団が現在の3倍になるという。米国みたいに資源を湯水のように浪費する人口が3倍になったら……、想像するだけでも恐ろしい事態が待っている。
これまで米国はあまりグリーン革命に関心を持っていなかった。本書で取り上げられている先進事例は、ほとんど日本とヨーロッパのものである。トヨタ自動車の「プリウス」、三菱重工業のタービン発電機、シャープのソーラーパネルなど、省エネとエコ関連技術は日本のお家芸だ。専門家の多くが、日本は地球上で最もエネルギー効率のいい先進国だと断言し、エネルギー価格高騰の時代でも繁栄する備えができていると考えているという。
日本の得意分野から未来の繁栄と成長モデルが導き出される大チャンスが到来している。しかし、米国も黙っていない。オバマ大統領が主張する「グリーン・ニューディール」は、まさしく米国の弱点を克服し、新たな産業と雇用を生み出すための政策だ。
本書は米国で100万部を突破した。多くの米国人が本気になったら、またしても主導権を米国企業に取られてしまう恐れがある。オバマ大統領も本書を読み「21世紀を制するのは、グリーンテクノロジーとグリーンエネルギーで主導権を握った国である」とコメントしている。日本が世界から半歩先にいる今、未来の主導権を握れるよう、グリーン革命は待ったなしといえるだろう。
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