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東京電力の存続は「前提条件」か藤田正美の「まるごとオブザーバー」(2/2 ページ)

一般に企業が何らかの形で人々に損害を負わせた場合、それを賠償するのは企業の責任である。

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電力自由化も悪くはない

 賠償金額が数兆円に及ぶとあれば、東電が普通の状態で支払うことは無理だ。いかに巨大であっても売上高は5兆円、総資産は13兆円にすぎない。もちろん東電という会社をただ倒産させることはできない。電力は安定的に供給することが大前提だからである。しかし電力の安定供給と東電の存続は同じではない。極端な話、東電にリストラを要求するぐらいであれば、東電が保有する資産をグループ会社も含めてすべて再評価してもいいはずである。すなわち東電を解体し、例えばその事業(東電管内の発電・送電事業)を誰かに譲渡すればいいかもしれない。

 もちろん新しく電気事業者として新東京電力を設立してもいいだろうし(従業員のほとんどはそこで再雇用することが可能だ)、東北電力や中部電力に部分的に譲渡してもいい。そうすれば事業の価値が評価され、賠償金を支払い、福島第一原発を処理できるほどの金額で売却することも可能だろう。東電の持っている含み益をすべて顕在化することによって、賠償資金や事故原発の後処理費用を賄い、それでも足りないところは税金ということであれば、国民も納得できると思う。

 さらに東電をどうするかということと直接に関係はないが、この際、送電網と発電所を切り分けて、本格的な電力自由化を図るというのも悪くはない。将来的な電源ということで言えば、原子力に頼る政策の見直しは必至。発電は、地熱や太陽光、太陽熱、風力、バイオマスなどの小口の再生可能エネルギーに傾斜せざるをえない。

 それは決して簡単なことではないし、大いに議論することが必要だと思う。しかし浜岡原発停止を国民の70%が支持したということは、現在、定期点検などで停止している原発を再開することが非常に難しくなることを意味している。再開が不可能になれば、来年中には日本の54基の原発がすべて停止することになる。

 小口の発電所を生かすには、実は現在のような10電力体制というのは適当とは言えない。なぜなら既存の電力会社は地域独占の下に送電も発電も行ってきたため、小口の発電所を競争させるような体質を持っていない。その意味では、むしろ思い切って東電を解体することのほうが、日本の将来の姿を描く上では必要だと言うこともできる。

 もちろんそのためには、電力を使うわれわれ国民が、自分たちのライフスタイルを見直すことも必要だ。駅の暗さも暑さも慣れてくればどうということもないかもしれない。風が吹き抜ける電車も悪くはない。そう思い切ることで、新しい日本のビジョンを世界に提示できれば、日本の技術や産業も息を吹き返すだろう。もっともそのためには福島第一原発が早く収束することが前提である。

著者プロフィール

藤田正美(ふじた まさよし)

『ニューズウィーク日本版』元編集長。1948年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。85年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年同誌編集長。2001年〜2004年3月同誌編集主幹。インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテータとして出演。2004年4月からはフリーランスとして現在に至る。


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