“経営者は社員の働き方に大いに不満”傾向と対策:生き残れない経営(3/3 ページ)
企業経営者が、社員の働き方に大いなる不満を持っている。一方で、「社会人基礎力」を人材育成に役立てる企業が増えている。しかし、いきなり「社会人基礎力」でいいのだろうか。
「人を育てる」を企業文化に
筆者は従業員300人ほどの機械部品メーカーA社のコンサルティング要求に応じ、社会人基礎力強化教育の導入以前に人材教育のファンダメンタルズ確立を指導したことがある。
A社は、人材教育面で多くの問題を抱えていた。役員10名ほどのうちほとんどが親族(社長夫人や専務夫人も名を連ねた)と、大得意先の大手機械メーカーからの天下り人事で占められ、管理職もほとんどの主要地位は天下り。従って社員のモラールは極端に低い。役員間の派閥が根強く存在し、一般従業員まで巻き込まれている。
社内では自分を守ることに精力を使い、縦横の情報交換に支障があり、人を育てるなどという雰囲気は微塵もない。有力営業部長が定年退職するとき、後継者や部下への顧客情報や顧客紹介の引継ぎがほとんどなく、そのまま持って退職したという噂は、決して例外ではなかった。
筆者がA社の社長や有力役員・幹部と何度も打ち合わせを重ねた結果、A社は全社を挙げて次のテーマに取り組むことにした。
(1)「人を育てる」を、社内に企業文化として根付かせる
(2)一方で、そのためにも従業員のモラールを上げる工夫をする
(3)社長方針を、「常時教育……企業は人なり」とする
(4)常時教育をするための方法を講ずる
(5)以上を実施・促進するための投資を、ある程度覚悟する
そして具体的には、時間は掛るが根拠が説明できない親族や天下り人事を廃止、「人を育てる」先導者となる経営者・主要管理者を社外のビジネスリーダー・コーチ養成コースに派遣、人事評価基準の客観化・明確化と公表、権限委譲、あらゆる機会を捉えて人を育てる/育てているかの声掛け運動、従来からとかく不評だった総務部門など管理部門の社員に対する対応の改善、社内コミュニケーションを図るための行事費用を認める等など、次々手を打った。改革に着手して2年経ち、徐々に効果が認められる。3年計画で進めている。
経営者が社員の働き方にただ不満を持っても、何も生まれない、状況が悪化するだけだ。不満の内容をよく分析し、社員との意識の差を知れば、改革のヒントや打つ手も考えつく。
まず、企業文化を変えることを決心し、「人を育てる」を企業文化として根付かせる改革に着手する。合わせて、その受け皿となる社員のモラールを上げる施策の実施も必須だ。
そのために、経営者が自らを変えなければならない。トップ始め経営者・管理者が、「人を育てる」ことを日常的に当然のこととして身につける。社員がそれを受け入れ、自分に必要な力を正しく認識し、挑戦できるようになる。
人材育成のファンダメンタルズを確立すれば、目的はほぼ達成したようなものだ。その後で社会人基礎力なり、具体的な人材育成プログラムなりに取り組めば、すんなり入って行ける。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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