誰もが陥っている“その場しのぎ症候群”の処方箋:生き残れない経営(2/2 ページ)
「その場しのぎ」による悪影響はじわじわとくる生産の低下、間違った解決による不良品の生産ひいては製品の市場改修など経営資源まで食いつぶす恐れがある。
その場しのぎ症候群の症状
R.E.ボーン教授は、次のうち3つ以上の症状が見られたらその場しのぎ症候群に陥っていると指摘する。これは、その原因とも解釈される。(1)すべての問題解決の時間がない、(2)おざなりの解決だ、(3)問題が再発しエスカレート、(4)ことの重要性よりも緊急性が優先、(5)小事が大事に発展、(6)パフォーマンスが下がる。しかし、これらは単なる現象の羅列だ。
「その場しのぎ症候群」の原因は、上記実態例でも示唆されているように、
(1)「その場しのぎ」でむしろ充実感さえ味わい、結果的にこれでよしの認識に陥っている、
(2)「その場しのぎ」が習い性になってしまい、例えば部長・課長・係長共に大きな問題が発生した際には部下に任せていた中小問題について、大きな問題がない時につい手を出してしまう、
(3)あまりにも時間に追われるため、根本対策を考えて実行する発想が頭から消えている、
(4)そして何よりも、「その場しのぎ」が社内認知されているということだ。
さて、「その場しのぎ症候群」の処方箋だ。R.E.ボーン教授提案の処方箋を一部参考に、次の処方箋を提案する。
(1)問題に優先順位をつける(R.E.ボーン:一部の問題は放置することを覚悟の上で、問題発生時点で問題を取捨選択する)。これは、軍医学からの応用だというところが面白い。
そんなこと当たり前だ!と言われそうだが、現実には問題が起こるはなから手を付けているので、謙虚に反省すべきだ。原因でも触れたように、発生した問題の重要性に無関係にとにかく食らいつくことを止めることだ。辛いことだが、中には放置する覚悟が要る。
「放置」できる1つの根拠はある。しばしば指摘されることだが、P.F.ドラッカーも主張する、「「企業は、自然現象ではなく社会現象である。そして社会現象は正規分布しない。つまり社会現象においては、一方の極の10%からせいぜい20%というごく少数のトップの事象が成果の90%を占め、残りの大多数の事象は成果の10%を占めるに過ぎない」(P.F.ドラッカー「創造する経営者」ダイヤモンド社)。
(2)問題をグルーピングして、まとめて根本的に解決する。上記A社の例で部材納入遅れや短納期飛び込み受注などは頻繁に発生するが、グルーピングして根本解決すべきだろう。
(3)「その場しのぎ」に報奨を与えない(R.E.ボーン:最悪の窮地から組織を救った人は英雄視される。しかしその人は、問題が発生した時にはどこで何をしていたのか。何故問題が大きくなる前に、先手を打って行動しなかったか)。確かに陥りがちな罠は、「その場しのぎ」で縦横無尽の活躍をする者をつい優秀な人材とみなし、評価してしまうことだ。それでは、「その場しのぎ」は決して無くならない。
(4)さて、最も根本的な処方箋だ。まず大前提として、何が何でも「その場しのぎ症候群」を根絶するのだという強い意志を全社に浸透させ、企業文化として定着させなければならない。それをブレークダウンして示せば、
・「その場しのぎ」は罪悪であるという認識を社内に植えつけ、社長方針に明記し、あらゆる機会に経営者はそれを復唱する。さもなくば、「その場しのぎ」人は「やり手」と誤解され、本人も間違った充実感を持つからだ。これは、経営側の課題だ。
・「その場しのぎ」に参画しないと、疎外感さえ持つ。その「その場しのぎ」習い性から、意識的に脱出する努力をする。中小問題を振り切る冷たさと思い切りを持ち、空いた時間で根本策を練る努力をすべきだ。これは、その場しのぎ実行側の課題だ。
・「その場しのぎ」の実績を「登録」し、その後フォローアップして根本策を実施したという「報告」を義務付ける制度と、それを監査するシステムを整備する。
「その場しのぎ」は火消しとして避けられないだろうし、大火に至る危険があるから認めざるを得ない必要悪だが、根本策でフォローアップすることを義務付けることが必要だ。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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