マグロ船の船長は、海賊のボスのように怖い人なのか?!:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
「マグロ船は過酷だ」。そんなウワサは本当なのか。水産食品の技術者が、上司の思いつきで乗せられてしまったマグロ船。でも釣った魚は大きかった。
トップクラスの売り上げはチームワークから
当時、日本には19〜70トン級のマグロ船は約500隻あったのですが、わたしが乗せられた船は、そのなかでも毎年トップクラスの売上を誇る船で、それを裏付けるように非常にチームワークよく仕事をして、効率よくマグロを捕っていたのです。そこで船長に、「若手の漁師たちを見ているポイントってどこですか? 」と聞いたときには次のように教えてくれました。
「昨日はできなかったけど、今日できたところ見よるかいのぉ」
「そんな小さい差なんて、どうしたら分かるんですか? 」
「え〜、こんめぇことでええから、3つとか4つとか教えてあげんのよ。“こげーするとうまくできるど”とか、“そこに足を置くとアブねぇど”とか」
「翌日、教えてあげたことができたところがあれば、褒めてあげるんですか?」
「そげーじゃ。 1個でもできるようになったところがあれば、“できるようになったの”と声をかけてやんのよ」
「じゃあ、昨日教えて、次の日になってもできていなかった部分はどうするんですか? 」
「よっぽどアブねぇことでなきゃ、ほたくっちょく」
「ええ〜、放置しちゃうんですか?」
「3つ教えたなかで、できるようになりよった1つをちゃんと気づいて褒めてやれば、言われた子は、『あ、船長はできちょらん残りの2つも知りよるな』っちゅーように、言わなくても分かるんど」
「会社だとつい、できるようになった部分には何にも言わないで、できていないところばかりを“何回言えば分かるんだ? ”と指摘しがちなんです」
「そげーしよると、若ぇ子は不満をためて言うこと聞かんようになるけぇのぉ」
「監視にならないようにしつつ、若手を見るためにはできたところを見ておくことが大事なんですね」
「ま〜でも、危険なことについては、ちゃんと言わねぇといけねぇけんの。 “できたところを見る”っちゅーより、“できたところと、できてないところの両面を見ちょく”ちゅー感じかいの」
多くの会社も似たり寄ったりかもしれませんが、わたしが当時勤務していた会社の上司は、できているところはできて当たり前、できていないところは、「お前、なんでそんなこともできねーんだ? オレにいちいちそんなことを言わせるなよ。もういいから1回死ね! 」とモーレツに怒るため、わたしを含めみんなが働く意欲をなくしていました。
できていないところばかりをアラ探しをするがごとくジィ〜ッと見てしまうと、わたしたち部下は、「絶対にミスを冒すまい」と考えて無難なことしかやらなくなり、気付くと仕事のやり方が時代遅れになってしまったり、非効率だとは分かっていても、今のやりかたを変えようとする人はいなくなり、部署の活気も下火になり、会話もドンドン減っていったのです。
部下のダメなところをキチンと指導してあげることは必要ですが、それだけだと指摘魔になり部下の心は離れてしまいます。良い面と悪い面の両面を指摘してあげることで、部下は、「この上司は、わたしを正しく理解してくれている」という信頼感が生まれ、だからこそ上司の言うことを聞くようになったり、部署にまとまりが出てくるのです。
著者プロフィール:齊藤 正明
ネクストスタンダード代表、人材コンサルタント / 研修講師
1976年 東京都 昭島市に生まれる。
2000年 北里大学 水産学部 卒業。バイオ系企業の研究部門に配属。
2001年 勤務先の研究所では、所長の無理な命令のため、スタッフは体調を崩したり、やる気を失い業績も雰囲気も低迷していた。そんなある日、齊藤自身もまた、理不尽な業務命令により、マグロ船に 乗せられることとなる。しかし意外にも、マグロ船で見聞 きした、漁師たちのコミュニケーション術のすばらしさに感銘を受ける。その後、研究所と他部署とのコミュニケーションの良好化を目した社内活性 プロジェクトを成功に導く。
2007年 退職。人材育成の研修や講演を行うネクストスタンダードを設立。『日本一のマグロ船に学ぶ! 職場をよりイキイキさせるコミュニケーション』などの研修が好評を博し、各地で活躍中。
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