事業開発が事業と言い切る――VOYAGE GROUP 宇佐美CEO:石黒不二代の「ビジネス革新のヒントをつかめ」(2/2 ページ)
今や4年でビジネスモデルが変わるといわれているネット業界で、軽やかにモデルを変えチャレンジし続ける秘訣は。
さて、ECナビ
主力サービスのECナビは、対外的には一貫して比較サイトとして知られていますが、そのコンテンツは豊富です。比較サイトの競争はその数が増えているため、差別化に力を入れています。昨年はショッピング部分を拡充してきましたが、最近は当初から導入していたポイント制度をさらに強化し始めています。単純なポイント制度でなく会員にランク付けをする、いわゆるCRM機能がついたポイント制を進めています。
事業体としての差別化を考える
短期間のうちに社名変更が2回。事業のコアを拡大し、インターネットという変化の早い業界に位置する会社として、宇佐美さんが他社と差別化をするために考えていることが3つあります。
1つは、ネット系ベンチャーとしての差別化です。そのためには、会社のカルチャー作りに力を入れること。当たり前かもしれませんが、なかなか実践できないことであり、その施策はさまざまです。宇佐美さんいわく、知名度も低く、安定性も低い会社ですから、大手の会社と同じ採用方法では、大手に勝てるはずもありません。大手がやらないようなゲリラ戦の実行や、インターンシップに力を入れています。
冒頭で紹介しましたが全社のビジョンはありません。事業ごとのビジョンはあっても、会社全体でビジョンをつくる必要はないとあるとき考えました。言葉にパワーはなく、変化が早い業界でビジョンを掲げると新しい仕事に取り組みにくくなると考えたのです。志は企業理念を表す「SOUL」と価値観である「CREED」で十分です。VOYAGE GROUPのSOULは「360°スゴイ」CREEDは「挑戦し続ける。自ら考え、自ら動く。本質を追い求める。圧倒的スピード。仲間と事を成す。すべてに楽しさを。真っ直ぐに、誠実に。夢と志、そして情熱。」です。
実は、ビジョンがない会社というのは、珍しくないそうです。事業開発を事業にすると決めたとき、商社を参考にビジョンを探したところ、ビジョンはなかったそうです。事業領域が広いので、ビジョンがないのでしょう。ビジョンは、あったほうがいいが、しっくりこないビジョンがあるとマイナスになる。しっくりくるものが出てきたらにビジョンを掲げればいい。あくまで、宇佐美さんは自然体です。
2つ目の差別化は、会社としての事業開発を事業内容にしたことです。つまり、次々と新しい事業が立ち上がるということです。ECナビを立ち上げたのは2004年。MyIDという懸賞サイトでナンバーワンになったが、懸賞サイト市場はその後シュリンクしたため、思い切ってECを事業にし、ECナビを立ち上げます。会員そのものは移行しましたが、今までの人に違和感なく新しい人にはリブランディングができるように、サービス名とコンセプトを変えました。
2007年には、2005〜6年からWeb2.0ブームが到来し、メディアでもCGMやブログが流行しました。しかし、ECナビはプッシュ型です。それまではECナビの拡大に注力してきましたが、それだけでは不十分と考え、 SSPのadingoが生まれました。環境変化についていける会社、環境変化を起こす会社でありたい、そのために新しい事業を開発する会社、VOYAGE GROUPが生まれたのです。
3つ目の差別化は、ECナビやadingoの差別化という事業レベルのものと、コーポレートレベルで差別化を生み出す仕組みです。果たして事業を生み続ける仕組みとは何でしょう? VOYAGE GROUPでは、新規事業コンテストを年に2回開催しています。そのほかに、ボトムアップで社内からの提案を直談判で受け付けます。また、トップダウンの新規事業提案の機会もあり、年に2回、役員がメンバーを集めて、役員対抗で事業を考える会が開催されます。
宇佐美さんは39歳にして、大学2年の子供がいます。学生結婚でしかも大学1年生の時に親になったそうです。人間の大きさを感じる宇佐美さんはインタビューの間、ほのぼのと終始笑いながら答えてくれました。その言葉を聞きながら社内の様子を眺めると社員が生き生きとしていて、改めて志が実践されているいい会社だと思いました。「いい会社ですね?」と言うと、宇佐美さんは「そうですよ(笑)」と答えます。宇佐美さんのことは、昔から知っているけれどじっくり話したことがあまりなくて、「宇佐美さんっていい人だったんですね」と言うと、「そうですよ(笑)」と答えてくれました。
著者プロフィール
石黒不二代(いしぐろ ふじよ)
ネットイヤーグループ株式会社代表取締役社長 兼 CEO
ブラザー工業、外資系企業を経て、スタンフォード大学にてMBA取得。シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立、日米間の技術移転などに従事。2000年よりネットイヤーグループ代表取締役として、大企業を中心に、事業の本質的な課題を解決するためWebを中核に据えたマーケティングを支援し独自のブランドを確立。日経情報ストラテジー連載コラム「石黒不二代のCIOは眠れない」など著書や寄稿多数。経済産業省 IT経営戦略会議委員に就任。
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