グローバルで戦うためのIT戦略には創造的破壊を進める勇気も必要:ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)
ITを駆使した新しいビジネスを、システム部門はリードできているのか。多部門の業務にも果敢に挑み、「とりあえずやってみる」という楽観主義も持ちあわせながら、新しい姿に変えていってほしい。
ITインフラストラクチャでは、クラウドも含む、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどのリソースをいかにグローバルで活用していくかが求められる。ナレッジマネージメントは、古くて新しい言葉であり、現在ではコンテンツマネージメントやソーシャル、コミュニティの導入から定着、加速までが求められている。
大野氏は、「現在、多くの企業が企業内ソーシャルに注目している。企業内ソーシャルは有効なのかと聞かれることが多いが、使い方しだいだと思っている。個人的には懐疑的な部分もあるが、新しいテクノロジーを使うことなく、頭から否定することも愚かなことだとも思っている」と話している。
オンプレミスとクラウドのハイブリッドを採用したHILTI社
グローバルで戦うためのIT戦略の事例の1つとして、クラウドの活用が挙げられる。例えば、1941年にリヒテンシュタイン公国で設立されたHILTI社は、基幹業務システムとしてSAP R/3をオンプレミスで導入していたが、グローバルでシステムを統合することを目的に、グループ会社にクラウド型のERPであるSAP Business ByDesignを導入した。
121カ国で建設業向けの工具や材料を製造、販売する従業員2万人以上のグローバルカンパニーであるHILTI社がクラウド型のERPを採用した目的は、財務報告や業績管理を本社で一元的に管理するためである。また、購買の本社管理、支払い処理や給与処理の本社集中、マスターデータ管理など、業務プロセスの標準化も目的の1つだった。
「HILTI社では、クラウド型のERPを利用することで、短期間かつ容易にグローバルのシステム統合を実現した。日本でグローバルに事業を展開している企業においても、本社システムはオンプレミスを中心とし、グループ会社にはクラウドを適用することが現実解といえる」(大野氏)
大野氏は、「今後は、本社もオンプレミスだけでなく、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)の上でERPを動かすという事例も出てくることが予測される。しかし、すべての会社が基幹システムをオンプレミスとクラウドのハイブリッドにする必要はなく、ビジネスのやり方や必要に応じてシステム構成を選択すればよい」と話している。
グローバルで戦うには創造的破壊も必要
「ここ数年、グローバルIT-HQという話題を耳にするようになった。しかしグローバルIT-HQは、一朝一夕には実現できない。個人的には、グローバルIT-HQの実現は、まだまだ先という感覚である」と大野氏は言う。グローバルIT-HQを実現するには、「Strategic Direction」「Manage Complexity」「Work in Global network」「Ensure Execution」「Strengthen Innovation」というサイクルを回していくことが必要になる。
Strategic Directionで「いかにITをグローバルに展開するか」という戦略を明確にし、Manage Complexityで「技術や人の管理、文化や商習慣、言語などの違い」を管理する。さらに、Work in Global networkで「いかにグローバルで各拠点のIT担当者を活用するか」を明らかにし、Ensure Executionでシステムを構築・運用、そしてStrengthen Innovationでイノベーションを推進する。
ただし、それ以前に足下で取り急ぎ考えなければならないことも多い。例えば、クラウドの利活用は本当にシステム部門の変革につながるのかといった問題である。大野氏は、「クラウドの利活用によりできた空き時間で、より付加価値の高い仕事にフォーカスし、コストセンターからプロフィットセンターに変革するというがそれほど簡単ではない。付加価値の高い業務を実現するためには、担当者の能力も関係する」と話す。
また、これまでのシステム構築はシステム部門に依頼することが必要であり、ハードウェアを中心とするIT資産を生かした、オンプレミスでの構築が前提だった。しかしクラウドの利活用により、ユーザー部門による自発的なシステム構築が増えてくる。大野氏は、「クラウドではIT資産の管理というシステム部門の特権がなくなる。特権がなくなるのはよいが、全社としてデータに対するガバナンスが失われることは問題である」と言う。
さらにITを駆使した新しいビジネスを、システム部門はリードできているのかということも考慮が必要。最後にいっそう厳しくなるコスト削減プレッシャーをどうするかを考えることも必要になる。「考えるべきは、大きく3つ」と大野氏。まず1つ目に、システム部門以外は手を出しにくい部分に果敢に挑むこと。2つ目に、堅さや慎重さも必要だが、「とりあえずやってみる」という楽観主義。最後に創造的破壊を進める勇気である。
大野氏は、「人事部門ではやりにくいタレントマネージメントや営業・マーケティング部門だけでは手に余るオムニチャネル、開発部門が躊躇しがちなフルーガル(倹約)エンジニアリング、さらによく分からないビッグデータなどにチャレンジしてみる。また、とりあえずクラウドを使ってみて、ダメならやめればいい。いまの仕事を捨てる勇気も必要であり、新しい姿に変えていくことが重要である」と締めくくった。
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