価格や性能だけの差別化は過去――問題解決型コミュニティで消費者の心をつかむ(2/2 ページ)
作り手である企業がどれだけ価格や性能の優位性をアピールしても、本当の価値は消費者が知っている。それでは消費者の本音をいかに聞き出し、製品に反映して、新たな価値を創出すればよいのか。
例えば、スポーツ用品メーカーのナイキでは、有名プロ選手に使ってもらうことで商品のすばらしさをアピールしている。またITを活用して一般のランナーも参加できるユーザーコミュニティーを創出し、世界中の人がどれだけ同じ体験をしているかを共有することでブランド価値を向上させている。
企業が担ってきたコミュニケーションの一部を消費者に代行させる仕組みが「協働マーケティング」である。これまでにコミュニティの創出に取り組んだ企業も多いが、コミュニティは従業員の集まりではなく、消費者の集まりなのでコントロールが困難である。そのため対応を間違えると炎上という問題が発生する。
「企業のコミュニケーションは、"いいでしょ!すごいでしょ!"という押しつけ的なものになってしまいがちなため反発する意見も出てしまう。意見は対立を生みやすく、質問は協調・融和を促進する。OKWaveでは、Q&Aコミュニティを運営してきた経験から、"問題解決型コミュニティ"が重要であると考えている」(佐藤氏)
サイレントカスタマーの声を生かす
OKWaveは、会員数250万人、月間利用者数4000万人以上、Q&Aの総数は3000万件、月間アクセス数は1億1000万PVに上る。以前はほとんどがPCからのアクセスだったが、現在ではモバイルからの利用が圧倒的に多くなっている。OKWaveのアンケートでは、85%の利用者が問題を解決できたと答えている。
佐藤氏は、「マニュアル的な回答ではなく、実際に利用している消費者が経験に基づいて回答することで問題解決率が高くなっている。1つの質問に平均3〜5つ程度の回答があるが、その中から"ベストアンサー"を選ぶことができる。5つの回答からどれをベストアンサーに選ぶのかも企業にとって大きなヒントになる」と話す。
消費者は企業のウェブサイトを商品の確認のために見ているだけで、実際に商品を選択するためには、経験者の声を重視する。そのため消費者の本当の声を集めることは困難である。OKWaveでは、質問の内容や回答の内容、お礼・補足内容、ユーザー属性、アクセスログなど、悩みの発生から解決までを分析することでユーザーの本音を抽出できる。
例えば子育ての悩みなどで、知り合いにはなかなか相談しにくい時がある。OKWaveであれば、親にも、友人にも相談しにくいことでも、同じ悩みを抱えている人が回答してくれる安心感があるので本音で聞きやすい特長がある。このQ&Aを分析することで、ユーザーの本音を企業に提供することができる。
「企業のマーケティングでは、かっこいい言葉で提案をするが、この言葉はユーザーには響かない。企業コミュニケーションで使っている言葉ではなく、ユーザー同士が使っている平たく優しい言葉が必要。また企業のアンケートは、答えを誘導する質問になるために、本音を引き出すことが難しい」(佐藤氏)
作り手よりも使い手が知っている
作り手よりも使い手が知っていることは意外に多い。例えば、「ある名曲のギターソロの音は、どのエフェクターを使えば出せるのか?」という質問があった場合、エフェクターメーカーの担当者では、設定までを答えることは難しい。しかし実際に使っている人人であれば、「私はこの設定で出している」と回答することができる。回答を想像できる分野もあるが、意外に気がつかなかった回答もあり、興味深いデータが集まってくる。
佐藤氏は、「Q&Aコミュニティ活性化のポイントは"恩送り"である。恩返しは恩を受けた人に恩を返すものだが、恩送りは恩を受けた人が、次の人を助けようと思う気持ちである。恩送りが自然にできるコミュニティを企業サポートに活用することで、より一層の顧客満足度向上が期待できる」と話している。
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