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デジタル・ビジネスの担い手は、CIOであるべきか?Gartner Column(3/3 ページ)

デジタル経済は、企業が製品やサービスにおいて新たなデジタル化の機会を追求する必要がある。しかし、デジタル・ビジネスをいつでもサポートできる「デジタル・コア」がなければ、こうした機会を完全に生かすことはできない。

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CIOの意思が何よりも課題に

 ここまでで、「デジタル経済」で勝利を収めるための条件としての「デジタル・コア」を整備するためには、CIO/ITエグゼクティブが、今までとは正反対のリーダーシップが必要であることが理解できる。念のために、何が正反対かを以下にまとめる。

 ・理由のいかんを問わず、自組織の外側に開放されたシステム・アーキテクチャを採用しなければならない。理由のいかを問わずと敢えて書いたのは、「セキュリティが……」とか「リスク管理のために……」と言い訳しても無駄だという意味を強調するためだ。

 ・すべてを制御することに慣れた組織から将来の技術的プラットフォームに何が起こるか確信が持てない組織になる。言い換えれば、「できて当然」という組織から、「チャレンジするのだから失敗も有り得る」という文化的な変革が必要ということだ。

 ・デジタル・コアへの刷新、構築は、「要件が決まっていない」間に完遂していなければならない。IT部門が最も得意とする「要件をお聞かせいただけば……」は、全く通用しないのだ。CIO/ITエグゼクティブが「信念の投資」を行わなければならない。

 「既存企業、既存ビジネスのデジタル化が遅延し、新たに出現する組織(スタートアップ企業など)がデジタル経済で勝利していく」というまことしやかな仮説は、上記のCIO/ITエグゼクティブが大部分の組織において「変化不可能」だからという予測の上に成り立っている。スタートアップ企業などでは、既存のリソースに影響されず、デジタル・コアを新規に構築できるため圧倒的に有利であると言わざるを得ない。

 実は、技術的な問題点以外にも、リーダーシップの課題の方がより大きく深刻ではないかとガートナーでは見ている。このような課題認識の逆説として、「デジタル・ビジネスは、CIOが先導すべし」と声高に話している。デジタル・コアの整備無しにデジタル経済での勝利は無いことは述べた。そして、デジタル・コアは、CIO自身の意識変革が絶対条件であるのだ。だからこそ、デジタル・ビジネスのリーダーは自分自身であると強く認識してほしいのである。

デジタル・コアとは何か?

 デジタル・コアは、相互に大きく依存している3つの「技術的要素」で構成されている。この3つの技術的要素によって、企業はデジタル経済に参加できるようになる。(図1参照)


図1:デジタルコア

 ・刷新済みのポストモダンのERPやその他エンタプライズ・アプリケーション:共通機能をコンポーネント化して、どのデジタル・チャネル ( モバイル・デバイス、Webなど) でも機能するようにする。これを仲介するのが、複数のアプリケーションによって同時に使用される共通のサービスとAPI( アプリケーション・プログラミング・インタフェース)である。これは、「あらゆるものをERPで開発しなければならない」というスローガンを廃止し、開かれたERP が外部のコンポーネントにアクセスできるようにすることでもある。

 ・サービス指向アーキテクチャ(SOA)に基づくデジタル・ビジネス:かつて大半の企業では、複雑で密に結合したアーキテクチャが支配的だった。この障壁を打ち破り、クラウドを含めた外部世界へとビジネスを開放し、オーケストレートする。

 ・高度なアナリティクス・ソリューション:新しく多様なデータ・タイプとデジタル・チャネルを扱い、予測的/処方的アナリティクスを使って未来を洞察できるもの。

 今までのITコアと、デジタル・コアとの違いについて簡単に表にまとめてみた。このように見てみると、コアの違いに驚くとともに、デジタル経済が何を指すのかも垣間見られて面白いだろう。(表1参照)次回は、3つの技術的側面について個別に説明したい。


表1:古いITコアとデジタル・コアの違い

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。


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