「ちゃんとした会社」ほど新規事業を生み出せないジレンマ〜社内で企画案を通すための3つのコツ〜:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
合理的な経営システムは事業環境に変化がない場合は有効だが、大きく変化する中で新たな価値を生み出すには逆に作用してしまうことも多い。いかにして既存の枠組みを超えて新規事業を創出するか。
いかにして既存の経営の枠組みを超えて新規事業を創出するか
本来、トップマネジメント自らが動いて新規事業が生み出せるような組織に変えなければなりませんが、それを待っているわけにもいきません。経営システムの改革と並行して、今の経営システムの中でも最大限の成果をあげられるよう動くのが真のリーダー人材です。
リーダー人材が新規事業を起案する時、いかに動いて組織の中から新たな事業を創出できるよう働きかければいいのでしょうか。
そのためのコツを3つ紹介します。
コツ1:社内を通しやすいロジックを立てること
よく「既存事業の枠組みにとらわれず自由な発想を」と言って検討が始まりますが、既存事業を無視して自由に発想したユニークな事業案が社内を通ることはまずありません。
事業案を通すか否かを判断するのは、既存事業で実績をあげてきた役員です。彼らの目線に立って判断しやすい事業案に仕立てなければいけません。そのためには、発想の起点を既存事業に置いておくことが有効です。
既存事業からの大きな変化を求めるのであれば、起点は変えず、そこから距離をとった事業案にすればよいのです。
起点を既存事業に置いて着想することで「なぜこの新規事業に取り組むべきなのか」が社内で説明しやすくなりますし、なんらか既存事業のリソースも活用しやすくなります。
不慣れな新規事業の戦略策定も「既存事業と何を違えて考える必要があるか」をあらかじめ認識した上で取り組めば、考えやすくなるはずです。
コツ2:お客さまの「不」から着想すること
上司より、役員より、社長より、株主より、誰を見て事業案を考えるべきかといえば、それは間違いなくお客さまです。
事業とは「不」の解消です。お客さまが抱えている何らかの「不」(不安、不便、不幸……)を解消することができれば、それは「事業」になります。世の中にある「不」を探すことがビジネスチャンスの探索であり、「不」の解消方法を考えることこそが事業プランニングです。
こう書けば自然なことととらえてもらえると思いますが、実際には新規事業の企画は、お客さまの「不」より前に、自社の「不」(経営課題)から検討が始まることがほとんどです。
もちろん自社の経営課題は解決せねばなりませんが、それはお客さまにとっては関係のないことで、お客さまの「不」を解消できなければ事業として成り立ちません。ですから、起案者は徹底してお客さまの「不」を丁寧に探し出し、そこにビジネスチャンスを見いだして事業プランに仕立てる必要があるのです。
社内を通すときに金科玉条の旗印にすべきは、お客さまの声です(これが通らない会社にそもそも未来はありません)。その声にリアリティーを持たせるべく、起案者はぜひ自身の足と耳を使って現場から直接お客さまの「不」を見つけるようにしてください。
コツ3:「忖度(そんたく)」ではなく役員と十分な議論をすること
新規事業に取り組む企業の中には「重要な経営課題であるとの認識の下、トップ直轄で推進する」体制が組まれる企業も数多くあります。
ですが、私の経験では責任者であるトップと推進する現場リーダーのコミュニケーションが、驚くほど薄いことが多いです。「トップはさすがに忙しいので月に1回くらいしか話せる機会がない」などと言っていては、とてもではないですが速いスピードで検討のPDCAを回すことはできません。
トップの考えを忖度(そんたく)するあまり、なかなか突っ込んだ質問もできず、曖昧な言葉の指示のもと動いていて、最終的な案を出したところでトップから「ちょっとイメージが違う」と言われては、長い時間をかけて検討してきたメンバーがかわいそうです。
関係者間で目標や方向性を事前にしっかりすり合わせておくのは当然ですが、もう1つ明確な言葉にして確認しておくべきことがあります。
それは、「この新規事業が自社にとって何への挑戦であるか」ということです。新規事業に何らかの「挑戦」はつきものです。挑戦のないところには取り組みがいのある成果も望めません。何への挑戦なのか、明確にして取り組むことにこそ意味があります。
新規事業起案者に向けた実用的なノウハウ
筆者はこれまで100社、1700案件、3500人の新規事業開発に携わってきました。その経験をベースに、その手法を「新規事業ワークブック」という本にまとめました。事業のプランニング手法だけでなく、社内でどう承認をとっていくかまでを網羅した実用書です。
ぜひ手に取ってみてください。
著者プロフィール:石川明
新規事業インキュベータ
1988年リクルートに入社。2000年までの7年間新規事業開発室でマネージャを務め、ゼクシィやホットペッパーなどを生み出した社内起業提案制度の事務局を務める。
2000年リクルートからの社内起業でオールアバウトを創業。(2005年JASDAQ上場)
2010年独立。インキュベータの代表取締役として大手企業におけるボトムアップによる新規事業開発の支援を行う。
「国語・算数・理科・社会」思考法という独自の事業開発手法が不慣れな人にもわかりやすいと好評。
著作に『新規事業ワークブック』(総合法令出版)、『はじめての社内起業』(ユーキャン)がある。
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