若手社員を「成長の危機」から救い出そう――カギはマネジャーの「問いかけ」にあり:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
若手社員が仕事や職場環境に強い違和感を抱き、働く意欲を失っている3つのポイント。
3つ目は、会社への幻滅です。今の若手社員は、強いリスク回避志向に押されて就職活動にそれなりの労力をかけ、選んだ会社のビジョンに共感し、自らが理想として考える社会人像やキャリアイメージを持って社会にデビューします。しかし、実際に働き始め、会社の実情に少しずつ触れていく中で、会社が掲げているビジョンがうわべだけのもののように思えてきます。手応えのない仕事、閉塞(へいそく)感に満ちた職場の中で、社会とのつながりを見失い、会社への幻滅を強く抱くようになるのです。
彼らの何人かは会社を辞めていきますし、あるいは精神を病んでしまいます。しかし、そのような人は一部にすぎません。大半の人は、こうした状況を致し方なく受け入れ、今もその会社で普通に働いています。入社前に抱いていた会社、仕事への期待はもはやなく、職場でのコミュニケーションに抵抗があるまま、待ちの姿勢で、しかしまじめに仕事をこなしています。
その状況で働き続けても、いい「仕事の型」はできないでしょう。仕事というものの面白さを知らないままに、長い職業人生を過ごすことになってしまいます。
彼らは、成長の危機にひんしています。この状況を看過していいはずはありません。この問題の本質は、コミュニケーションにあります。リアリティーショックによって、伝わるものが伝わらなくなっている、見えるものが見えなくなっているのです。その難関から彼らを救い出すことができるのは、マネジャーに他なりません。
若手社員は、入社当初には、その会社で携わる仕事を通して、社会に何らかの価値を提供し、貢献する姿を思い描いていたはずです。しかし、目の前の仕事、職場に埋没し、自身のキャリアビジョンはいつしか封印されてしまっています。自らが「今の仕事、職場では、自身は何も成長できない」というフィルターをかけてしまっているのです。
しかし、彼らが担当している仕事の先には、顧客が、そして社会が必ずあります。フィルターを取り外し、今の仕事が、「社会とつながっている」ことを気づかせる、実感させることで、成長しない危機から救い出すことができるのです。
有効なのは、キャリアインタビューです。この会社に入ってくるまでの彼らの思考や行動のプロセスに関し、問いかけを重ねることで引き出してあげてください。子どもの頃や中学、高校の時代、仕事や働くことについてどんなふうに感じていたか、就職活動を始めるときには、どんなことを思っていたか、そして、この会社とどのように出会ったのか、何に引かれて入社を決意したのか……。
キャリアインタビューを通して、彼らは自身のキャリアビジョンを思い出します。また、キャリアインタビューを通じて、自身のキャリアに対する主体性を取り戻します。今の仕事の中でも、キャリアビジョンを実現できるのではないかと、試行錯誤を始めます。
もちろん、キャリアインタビューだけですべてが解決するようなケースは決して多くないでしょう。大半のメンバーは、それだけではまだ指示待ちから脱することができません。しかし、日常のコミュニケーションにおいても、基本スタイルはキャリアインタビューと同じ。カギとなるのは「問いかけ」です。仕事の先にある顧客の存在や思いに気づかせる、意識させる。答えは決して言わずに、本人の口から言わせることで、その仕事の主人公は彼らである、と自覚させるのです。
問いかけとは、自分で考えることを求めていくことでもあります。自分で考えろ、と命じるのではなく、問いかけを通じて、自分で考えることを促すのです。そしてそれは、決して若手社員を活性化させるためだけのアプローチではありません。変化が速く、不確実性の高い現代においては、メンバーの持てる力をフルに引き出すファシリタティブなリーダーが待望されます。そのファシリタティブ・リーダーのコアとなるのが、問いかけの力。若手社員を生かすことは、未来に通じるリーダーシップを発揮することなのです。
著者プロフィール:豊田義博
リクルートワークス研究所 主幹研究員
1983年東京大学理学部卒業後リクルート入社。就職ジャーナル、リクルートブック、Worksの編集長を経て、現在は研究員として、20代の就業実態・キャリア観・仕事観、新卒採用・就活、大学時代の経験・学習などの調査研究に携わる。著書に『若手社員が育たない。』『就活エリートの迷走』(以上ちくま新書)、『「上司」不要論。』(東洋経済新報社)、『新卒無業。』(共著 東洋経済新報社)などがある。
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