今SAPがAI、機械学習で成し遂げようとしていること
かつて大手を中心に多くの日本企業がグローバル標準のERPパッケージを競うように導入したが、本来の効果を十分に享受できていないといわれている。そのひとつが、基幹の業務を通じて得られる「人」「モノ」「金」のデータ活用だ。こうした企業が蓄積してきた、貴重なデータをよりスマートに生かせるようSAPでは、機械学習、いわゆるAIの機能をアプリケーションに組み込み始めており、人材管理や財務・会計はもちろん、購買・調達、資材管理、CRMなど、幅広い業務の効率化が期待できる。さらにデジタルイノベーションのためのシステムとしてERPと連携する「SAP Leonardo」を組み合わせていけば、新たな価値を創造する、スピーディーなデジタル変革も実現できるという。(ITmedia エグゼクティブ 浅井英二)
SAPが進めるAI・機械学習ソリューションの戦略とは
AIや機械学習といったキーワードがメディアで大きく取り沙汰される中、ビジネスの世界では既にいち早くその機能を取り入れる動きが活発化している。特に、デジタル技術の積極活用によってビジネスモデルを変革する「デジタルトランスフォーメーション」を実現する上で、AIはコアテクノロジーと目されている。
また、「社内に保有する情報を管理・処理する」ことを目的とした従来の業務システム、つまり「System of Record(SoR)」に対して、デジタルビジネスにおいては企業が先進のテクノロジーを生かしてイノベーションを実現できる「System of Innovation(SoI)」の価値が高まっていくといわれている。このSoIを推進していく上でも、AIは極めて重要な技術として位置付けられている。
これまでSoRのアプリケーション分野で長らくトッププレイヤーだったSAPが、AIや機械学習といった先進技術を武器にSoIの分野にも注力を始めている。
SAP Leonardo自体は、機械学習以外にもブロックチェーンやビッグデータ、データインテリジェンス、IoT、アナリティクスなどさまざまな先進技術を網羅しているが、その中でも機械学習分野に焦点を当てて、この分野でSAPが現在進めている取り組みや、その成果を紹介する。
SAPジャパン プラットフォーム事業本部 エバンジェリスト松舘学氏は、SAPが現在進めているAI、機械学習関連のソリューションについて、次のように説明する。
「現在SAPでは、"SAP Leonardo"というデジタルイノベーションシステムを戦略的に打ち出している。これまで主力としてきたERPは、ヒト・モノ・カネをデータ化(デジタル化)してビジネスの効率化やスピードアップに生かしてきた。SAP Leonardoでは、こうしてたまってきたヒト・モノ・カネのデータ活用で培ってきたノウハウを、同様に、IoT・センサーの登場で可能になったアナログ情報のデジタル化により、ビッグデータや機械学習といった先進技術を使ってビジネスの優位性強化へとつなげていくことを目指している」
3つの方向性でAI関連の施策を進める
SAPジャパン ソリューション統括本部ソリューションスペシャリスト 羽石哲也氏は、さまざまな事例を通してSAPが現在AI分野において大きく分けて3種類の施策を進めていると説明する。
「1つ目の取り組みは、SAPのアプリケーションの中にAI機能を取り込んで、ユーザーが気付かない内にバックエンドで機械学習の処理が行われるようにするというもの。2つ目は、主にデータサイエンティストなど大量のデータを分析する方々向けに、データ分析用の機械学習ソリューションを提供するというもの。そして3つ目は、ユーザー企業やパートナーとの協業を通じて機械学習を使った新規事業を実現するための取り組み。この3つの施策それぞれにおける取り組みや事例を紹介する」
まず1つ目の取り組みに関しては、既にSAPが開発・提供するさまざまなアプリケーション製品の中に機械学習の技術が取り入れられている。具体的には、人材管理や財務・会計のアプリケーションを始め、購買・調達、資材管理、CRMなど、極めて広範囲に渡るアプリケーションに生かされている。一例を挙げれば、人材管理アプリケーションの中で、離職者の傾向を分析して離職しそうな従業員を割り出すといった機能において機械学習の技術が活用されている。
2つ目の大量データを分析する方々向けの施策の中心となるのが、「SAP Predictive Analytics」と呼ばれる予測分析の製品群。そのベースとなっているのは2013年に買収した米KXEN社が保有していた技術だ。世界初の商用機械学習エンジンとして1990年代より長い実績を持っており、既に世界中で1000以上の導入事例を持つ。使い勝手も良いのでマーケティングの担当者など専門家ではなくても活用可能だ。
日本国内においても多くのユーザーを獲得しており、その1社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブではこの製品を活用して6000万人以上の購買分析とアライアンス企業48社に対する販促支援を行った。その結果、ダイレクトメールによる来店誘導の反応率が1.4%から4.7%へと、3倍以上に向上した。顧客数に直すとおおよそ60万人から350万人に増えている。仮に350万人全員が100円のものを購入したとしたら3億5千万円の売り上げが上がる。また、分析担当者にとって最も負荷の掛かる作業工程を自動化したことで、作業負荷を半分にまで軽減したという。
3つ目のユーザー企業やパートナーとの協業、すなわち「Co-Innovation」による成果も既に多く上がっている。その1例として、宝石会社とともに構築した「破損製品の類似品検索」がある。宝石が破損した場合、顧客はその写真を撮って宝石会社のサポートセンターに送る。そこでSAP Leonardo Machine Learningが自動的に製品の画像を分類し、修理費用や代替品の正確な情報を生成して顧客へ通知する。
「SAP Leonardo Machine Learningは既に豊富なサービスをラインアップしており、これらを使ってお客様と新たな取り組みを進めている。さらに今後さまざまなサービスのリリースを予定しており、これらは極めて幅広いビジネス領域に適応できる」(羽石氏)
今すぐ始められるSAPのAIソリューション
SAP Innovation Center Network, Machine Learning for the Digital Core, セバスチャン・シュロテル氏はSAP社内業務における機械学習の活用例を紹介した。
1つ目は「SAP Cash Application」の活用例。SAP Cash Applicationは、支払請求書と入金消込のマッチングを、機械学習を使って自動的に行うためのソリューションで、最新のSAP S/4HANAのオプションとして利用可能となっている。
シンガポールに本拠を構え、SAPの東南アジアにおけるビジネスを統括するSAP South East Asiaでは、2016年に7362通の請求書を発行しており、そのマッチング処理に年間480時間を費やしていたという。そこでSAP Cash Applicationを導入し、過去の履歴データを学習させた上で、請求書のマッチング自動化処理に取り組んでいる。まだ評価段階ではあるものの、60%以上の請求書が95%以上の精度で自動的に消込でき、その結果、60%以上の手作業を削減できる効果を見込んでいる。
ちなみにスイスのエネルギー企業ALPIQは、SAPと共同でSAP Cash Applicationによるマッチング業務の自動化に取り組み、既に自動化率92%を達成しているという。
またSAPのIT部門では、「SAP Service Ticketing」を使い、サポートサービスの品質や業務効率の向上を実現している。SAP Service Ticketingは、ユーザーからの問い合わせの内容を自動的にチケット化し、機械学習技術を使ってその内容を自動的に分類して適切な回答を選択したり、あるいは適切なエージェントにエスカレーションすることができる。こうした自動化により、サポートサービスやヘルプデスクの応答時間を短縮し、顧客サービスの質を向上させることが可能になる。
マーケティング業務においても、「SAP Brand Impact」と呼ばれる製品を導入することで、機械学習の恩恵を受けることができる。これは、自社がスポンサードしているスポーツイベントなどの動画から、自社ロゴの露出頻度を自動的に検出し、その費用対効果を図れるというもの。これまでは人の目で行っていたブランド露出のチェックを自動化することで、やはり大幅な業務効率化が可能になるという。
「SAPではこのように、機械学習のメリットを今すぐ享受できるさまざまな製品を用意しており、またユーザー企業とのCo-Innovationプロジェクトも既に10件以上実施している。AIのビジネス活用に関心をお持ちの方は、ぜひSAPとともに新たな一歩を踏み出してほしい」(シュロテル氏)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2017年12月31日